19章 花火大会と恋の予感 -2
「ええ!美羽ちゃんついこの前合コンへ行ったと思ったら、次は花火大会?なんだか階段を2段飛ばしくらいで登ってる勢いだねぇ。」
今日はバーのマスターをやっている叔父さんも私の家に来て、両親とともに4人で食事。叔父さんのバーが近いのでたまにうちで食事をしてからお店へいくこともあるのだ。今はお母さんが料理中、お父さんは帰路についている途中なので叔父さんとリビングでおしゃべり中。
「階段を飛ばす?」
「いやーだって、美羽ちゃんって友達もいなかったし引きこもっていただろう?そんな子が合コンに花火大会って…。世間一般には友達をちょっとずつ増やして、まずランチや映画へお出かけするところから徐々にって感じじゃないのかなぁ。そもそもあの事務所の人に美羽ちゃんを頼んだ俺の言うセリフじゃないだろうけど。」
「そっか。私、女友達と放課後におしゃべりとか部活で仲間たちと一緒に汗流すみたいな、そういうザ・青春みたいなことしてこなかったからなぁ。普通ってそういう風に段階を踏むものなんだ。」
無知ゆえに、私には普通の感覚が分からない。それに友達関係と私の置かれている立場はちょっと違う気がする、雅樹先輩ものり子先輩もあくまで職場の人なのだから。
「なぁに美羽、今度は花火大会?この前の合コンの人?もしかしてカレシでもできたのぉ?」
お母さんがニッコニコで話しながらテーブルに料理を並べに来る。この人は何か勘違いをしてないかな?しかも今日はなんでもない普通の日なのに、おかずだけですでに6品くらい並んでいる。
「あのねお母さん、花火大会へ一緒に行くのは職場の人。合コンで知り合った男の人達ともあれから連絡していないし。」
「きっと今まで友達もいなかった美羽ちゃんが急にいろいろ遊ぶようになってくれたから、お母さんも嬉しいんだよ。」
叔父さんがこっそり耳打ちしてくる。あぁそういうことか、だから品数がこんなに多いんだ。アレコレ追加で出てきてテーブルの上のおかずは結局9品くらいになった。家でクリスマスパーティするときよりもテーブルの上が豪華である。繰り返すが今日はなんでもない普通の平日の夜なのに。
「なにー!男の人と花火大会デートだと!美羽、花火大会へ行く前にその男を一回ウチへ連れてきて、お母さんとお父さんに紹介しなさい!しょうもない男だったらお父さん、追い返すからな!」
お父さんは帰ってくるなり玄関先で事情を聞いたのか、鼻息を荒くしている。私の両親ってこんなに勘違いしやすい親だったのか。18年も一緒に住んでいて今更分かったことがびっくりである。お父さんが食卓につきようやく夕食がスタート。
「お父さんったら私がさっき聞かせたんだけどね、娘が男と二人で出かけるのが心配で仕方ないのよ。美羽だってもう成人したのにねぇ。」
「だーかーら、職場の人だってば。それに一緒に行くのは男の先輩だけど、その人の妹も来るからデートじゃありません。というわけで一々ここに連れて来ることもしません。」
「おっ職場の人ってことは、もしかして俺のバーに来る人じゃないかな?ほらあの美人の何でも屋さんとたまに一緒に来る結構若い男の人だろう?」
美人とはのり子先輩のことだろう。そういえばのり子先輩、たまに叔父さんのバーで雅樹先輩と飲むって言ってたな。
「そうそう、その人と行くの。」
「じゃあ大丈夫だよ。あの人ウチの店に来てくれるけど、他のお客さん達ともよく喋るしイイ人だと思う。安心して行ってきなよ。」
「念の為、お父さんにその男の連絡先を教えておきなさい。」
「もう!昭和オヤジみたいなことやめてよね、恥ずかしいんだから。」
「お父さんは立派な昭和生まれだ!」
私のお父さんってこんな頑固オヤジみたいな人だったっけ?結局4人で食事するには明らかにおかずが多く、半分以上が冷蔵庫へ保管されることになった。
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