18章 浮つく気持ちと黒い嘘 -42
~答え合わせの日~
営業開始とともに依頼主の桐山桃子が現れた。彼女は一刻も早く答えが聞きたいのだろう、お茶の準備をする川島田さんのことを落ち着きのない様子で見ている。上品な人だと思っていたのでその様子は少しチグハグに感じられた。ちなみに男性陣は朝から出払っているので、今は私と川島田さんとお客様の霧島さんの3人しかいない。
川島田さんがお茶を置き席に着くや否や、口火を切る霧島さん。
「それで、あの人の調査はどうなってますの?」
そんな霧島さんへ、川島田さんは一枚の写真を差し出す。
「これ、例の高いブランドバッグじゃないの!んまぁ、あの人…私にコソコソ隠れてどこの女にこんなの買ったのかしら!」
「プレゼントする気のようですね…奥様に。」
「え!?」
霧島さんは言葉に詰まって固まる。少し離れたパソコン席でその話を聞いている私も固まる。
「奥様、もうそろそろ結婚20周年だそうですね?それで旦那さんに、密会しているような相手はいない。だけどこのバッグはレディース用なので、旦那様が自分で使うわけでもない…となれば答えは一つです。奥様、あなたへのプレゼントなんですよこのバッグ。」
「そ、そんな…あの人が?」
自分が勘違いし旦那を疑っていたことをようやく理解し始めたのか、うろたえる霧島さん。
「こういう仕事をしていると意外に多いんですよ、特に女性側の勘違いで無実の旦那様を疑って傷つけて無駄に争うようなケースが。奥様、結婚記念日はいつですか?」
そこで霧島さんはハッとした表情になる。
「今日…ですわ。」
「ね?ですから、少し旦那様を信用してあげてはいかがでしょうか。もちろん報酬は明日、つまり今日旦那様のプレゼントが本当に自分宛てなのか、確認してからでかまいません。」
「で、でも!あの人は私に嘘を!」
照れ隠しなのか勘違いしていたことが恥ずかしいのか、川島田さんに噛みつく霧島さん。私にはなんとなくその行動の意味が分かる気がする。
「嘘、と聞くと普通悪いことをイメージします。やましいことを隠したり、人を騙したり…。でもサプライズを隠し、驚かせるための嘘もあると思うんです。嘘は嘘でも、結果はハッピーにつながる嘘。霧島様、夫婦仲がよろしいようで羨ましいですわ。」
川島田さんの最後の一言で観念したのか、急に霧島さんが態度を改めた。
「そうですね、あなたの言う通りです。私、勝手にあの人を疑って…恥ずかしい限りですわ。今日は結婚記念日、ちょっとは豪勢な料理を用意してあの人を待とうと思います。では。」
霧島さんは穏やかな笑顔で去っていった。
「川島田さん…。」
「そう、今回のケースは勝手に妻側が不倫を疑い暴走していたケースね。浮気や不倫のニュースが溢れているけど、こういう勘違いのケースも多いものよ。覚えておいてね。」
私は一つ納得したことがある。先入観はやめろと先日川島田さんに言われたが、確かに今回の件は旦那が不倫しているとハナから決めてかかっていては、絶対に結果を誤認するケースだったからである。
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