18章 浮つく気持ちと黒い嘘 -36
私と川島田さんは食後のデザートを頼むことにした。私はバニラアイス、彼女はあんみつである。店員さんが下がったあとに話を続ける私たち。
「でもね美羽ちゃん、チラシの件はやっぱりあなた一人でやるべきだと思うわ。」
「所長の命令だからですか?」
「それもあるけど…。まぁほら美羽ちゃんが作ったものをそのまますぐ印刷してばら撒くわけじゃないから、絶対にアタシ達のチェックが入るから大丈夫。そう考えれば少しは気が楽でしょ?どんなに変なもの作っちゃっても誰かが必ず修正してくれるんだからね。」
「川島田さんならどうしますか?もし私の立場なら。」
「うーん、アタシならとりあえずやってみるわね。これは何にでも言えることなんだけど、頭で考えてるだけじゃ何も先に進まないのよ。だからアイデアがまとまっていなくても、1ミリでも思いついた時点で行動を起こしてみる。そうしたら不思議とね、デザインは全体的にこうしようとかやっぱりココを直そうみたいに、どんどん次にやるべきことが見えてくる。だからとにかく手を付けてみることね。それに一人でやることには他にも意味があってね…。」
たしかにそうだ、自分の頭の中に思い浮かべているだけでは仕事は進まないし解決しない。それとなんだろう?今、彼女はなにか言いかけたような。
「えっなんですか?」
「ううん、なんでもないわ。チラシが完成したら言うことにする、とりあえず頑張って!」
デザートが運ばれてきた。お店で食べるバニラアイスって格別においしく感じるのはどうしてなのだろうか?もちろん普段コンビニなどで食べるアイスとは原材料なども違うのだろうけど。川島田さんのあんみつなんて、白玉の上にさまざまなフルーツが乗っていてとても心惹かれる。私もあんみつにすればよかった。
「あ、それと不倫調査の件だけど美羽ちゃん聞きたがっていたでしょ。ターゲットの旦那さんね、どうやら本当に仕事で残業しているみたいね。アタシは保険会社のことは詳しくないのだけど、どうやら来年度に別の地域に新たな支店を作るみたい、それでゴタゴタしているようね。」
本当に仕事での残業なら、奥様が心配していたことは杞憂?いやいや騙されちゃだめ、あの旦那さんは仕事が終わっても一直線に家に帰らなかった。
「あの人、高級ブランドのハンドバッグを買おうとしているんですよね?そんな高価なものを誰にプレゼントする気でいるんでしょうか?」
「それね…アタシはもう大体の目処が立っているんだけど、まだ確証が持てないから余計なことを言うのはやめておくわ。」
「えー!イジワしないで教えて下さいよ!」
「ダメダメ、先入観は特にこういう繊細な調査にとって邪魔になるのよ。自分の思考も行動も偏って、どんどん間違った方へ進んでしまう。美羽ちゃんも気をつけたほうがいいわ。ほらアイス溶けちゃうわよ。」
そのあと川島田さんはおごると言ってくれたのだが、私は自分の分は自分で支払った。なんとなく、全額おごってもらうのは抵抗がある。この前は歓迎会だったけど、今日はただのお食事なのだから。
「イマドキの若い子って奢られるの嫌いって言うけど本当なのね~。」
「川島田さんだって20代じゃないですか!世間的には十分若いと思いますけど。」
「あらそう?でもアタシみたいに20代も後半に差し掛かるとね、なぜか素直に喜べなくなるのよね。普通若いですねって言われたらとても嬉しいはずなんだけど。」
「どうしてですか?」
「美羽ちゃんもあと数年したら分かるわ、イヤでもね。さぁ行きましょうか。」
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