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何でも屋 H・M・Oの依頼簿  作者: ゆうき
18章 浮つく気持ちと黒い嘘
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18章 浮つく気持ちと黒い嘘 -34

 それからは怒涛の日々だった。まずチラシデザインの一新を入社早々任されたわけだけど、私は広告代理店などで働いたことはないしそんな勉強をしたこともない。今配っている現行のチラシは結構レイアウトが良く、改めて見ると白黒印刷ながら文字の大きさや地図の位置なども考えられているようでとても見やすいし字も読みやすい。

 こんなセンスの良いものをどうやって作ったのかと尋ねたら、それは所長がここを開設したときに、彼の知人が学生時代の(よしみ)で格安で作ってくれたのだという。じゃあその人にまた頼めば良いじゃないか、なんて甘い考えは通用しないのがこの事務所だと私は知った。その知人はもう数年前に転勤で関西に行っており、さらに役職が上がったため今まで以上に多忙で頼めないとのことだ。

 「そもそもその人に頼めるなら、ド素人の美羽ちゃんにわざわざお願いしないわよ。」

 川島田さんの仰るとおりだ。しかしこれはまた大変な仕事を押し付け…いや、任されたものだ。うーんとりあえず、新聞と一緒に配達されるスーパーやパチンコ店の広告でも見てみようかな。イマドキはスマホでも見られるし。


 マナー講習もクセモノだった。岡谷さんという53歳の女性講師だったのだが、この人が鬼のように厳しい。お辞儀の角度や足の開き方なども油断してちょっと角度やスピードがズレた瞬間、ものすごい剣幕で叱りつけてくるのだ。初日から私は戦々恐々としてしまい、これを帰ってから川島田さんに早速報告した。しかし彼女は

 「あら、厳しくやってもらえてよかったわね。生ぬるい先生だと身につかないからね、厳しい先生の方がいいわ。えっどうしてかって?人間、"また怒られたくない"とか"もう怒られないようにしよう"って思うと、結構学習能力が働くものなのよ。自分を守るための一種の防衛本能に近いのかしらね、というわけで講師は厳しいに越したことないわ。アタシの持論だけどね。」

 と、なんだか雲を掴むような返答をしてきた。いや私はもうちょっと慰めてくれるとか、大変さを共感してくれるかなとか、要するに少しは私の気持ちに寄り添ってほしかったのだけど…。

 さらにのり子さんが言っていた通り、お茶やコーヒーの淹れ方の指導も受けた。私は以前このことに関して川島田さんからヒントをもらっていたので、この講習だけはすんなりパスできた。何気ない会話で得た豆知識がこんなところで役に立つものなのかと少し驚いた。


 健康診断も終わり、早く不倫調査へ乗り出したい私はさっさとチラシを完成させ所長や先輩方へ見せたのだが、見事に却下された。

 「キミの作ったチラシのレイアウトはカラフルで華やかで、なんだかワクワクするね。しかし俺達のビラは印刷費を抑えるために白黒なんだ。つまり色使いでのインパクトは役に立たないってことさ。」

 所長からそう言われ、私は思わず反撃する。

 「えっ!だって白黒印刷で作れなんて一言も言われませんでしたよ?」

 しかし所長は首を振る。

 「キミも持っているだろう、現行のチラシ。それが白黒印刷である以上、もしかしたら次も白黒印刷でコピーするのかもと想像することはできたはずだ。また自分から『次はカラー印刷ですか?それとも白黒印刷ですか?』と確認することだって一つの手段として挙げられる。だがキミはそれらをしなかった、いやそうやって想像したり確認したりすることは頭になかった。今のキミは不倫調査へ行きたいばかりが頭にあるからね。違うかな?」

 大人って理不尽だなぁと思いながらも、図星なので言い返すことができない。確かに、カラー印刷か白黒印刷かくらい聞けばよかった。

 「別の仕事で頭がいっぱいになって、目の前の仕事が(おろそ)かになっているようでは本末転倒だな。それに不倫調査の請負人は川島田の名前で契約しているはずだ。不倫調査は彼女へ任せて、キミは目の前に仕事に集中しなさい。」


 私は小さな声で、ハイと返事するのが精一杯だった。

 いつも閲覧・評価ありがとうございます。感想・誤字の指摘などありましたらよろしくお願いいたします。

 ※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。


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