18章 浮つく気持ちと黒い嘘 -22
「あの…何か怒ってます?」
そっぽを向いたままの川島田さんに急に不安になる私。その質問の意味を察したのか彼女はすぐに答えてくれる。
「美羽ちゃん、アタシ達が何のために今ここにいるかを考えて?おしゃべりするなとは言わないけど、視線はどこへ向けているべきかしら?」
そうか、私達はターゲットが会社からいつ出てくるか分からないから、ビルの入り口から目を離すわけにはいかないんだ。別に彼女は私を嫌いだからそっぽを向いているんじゃない…少しホッとした。
「仕事をするってそういうことよ。なにが一番大切なのか、そのことを忘れちゃダメ。」
しかし私には今回の件で、とある疑問があったのだ。それを素直にぶつけてみることにしよう。もちろん私もビルの入り口を見つめながら。
「もしターゲットの不倫相手が会社の同僚とかだったらどうしますか?例えば残業と偽って誰もいない会議室なんかで就業後に密会しているとか。そういうパターンの場合って、こうやって入り口を張っていても仕方ないんじゃないですか?かと言って私達、あの会社の社員じゃないからドラマみたいに会社に乗り込むってわけにもいかないですし。」
やはり彼女は視線を入り口から逸らさない。
「そうねぇ。もしそのパターンだった場合、ターゲットが退社する前後に不倫相手が出てくるはず、それも数日調査してみると不自然なほどの頻度でね。まずはそれを確認するわ。あとは簡単ね、ターゲットの周囲の人に聞き込み調査またはSNS調査を入れるだけよ。社内不倫っていうのはね、バレてないと思ってるのは本人たちだけで周囲の人は気づいていることが多いのよ。」
えぇ!そうなんだ。強い確信があるとでも言いたげな彼女の口ぶりからすると、今までにそういう案件が何回かあったのかもしれない。私は不倫とはこっそりやるもので、警察や探偵の調査でようやく発覚するようなドラマのシーンばかり想像していたので、意外とバレているものだという彼女の発言にとても驚いた。
驚いて川島田さんの方を見るが、彼女は一切ビルの入り口から目を離さない。それを見て私もハッとしビルの方へ視線を戻す。
「でも不倫って普通バレないようにやりますよね?どうして周囲の人は気づくんでしょうか?」
「大体気づくのは女の人ね、アタシが今まで調査してきた体感もう8割くらい女性が気づくわ。そこからウワサになって、男性たちの耳にも入って…っていうパターンが圧倒的ね。女の勘ってやっぱりバカにできないものなのね。」
こういう話もけっこう参考になる。今後浮気や不倫調査をするときは、まず女性へ調査を入れたほうが良いということになる。
「では勉強のためにも質問したいです、浮気バレする一番多いパターンってあるんでしょうか?」
「あるわよ、ズバリ"男側の態度"ね。昔から女はみんな女優って言うでしょ、基本的に女性って隠すのがうまいのよ。それに比べて男性は良くも悪くも単純。アタシがこなしてきた依頼で一番多いのは、男性社員が特定の女性スタッフにだけ優しくて、やっぱり不倫していたという状況ね。これが本当に多いのよ。男性は仕事中であっても浮ついた気持ちを隠せない人が多いわ、もちろん全員ではないでしょうけどね。女性でもバレる人はバレるし、ただそういう傾向は強いわね。」
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