1章 アパレル女性 絞殺事件-3
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
なるほどねーとのり子が資料に目を落としながら言う。
「みんな一人暮らしでアリバイなし。私的には職場の上司が痴情のもつれで、の線を疑っちゃうけどね。女のカンってやつ?」
「証言を整理する限り、全員に犯行は可能というわけか。」
独り言をつぶやく忠司、一方雅樹はふと気づく。
「この梶原って人、犬の世話に夢中と証言したんですか?犬の世話くらいなら被害者の悲鳴くらい聞こえるんじゃないですか?」
警部はそうだと頷き続ける。
「もちろん我々も同じ疑問をもったんだが、事件当時は被害者が襲われたとみられる時刻と同じ頃から、大雨と落雷の注意報が出ていてな。ついでに風も強くなっていた。そのために飼っている犬が驚いて、ずっとワンワン吠えるからなだめるのに大変でしたと言っていたよ。きっと雨風の音と犬の鳴き声が重なって聞こえなかったのだろう。」
忠司が確認するように聞く。
「おそらく足跡はダメだったんですよね?玄関先ということは犯人は中には入ってないでしょうし、玄関先なら捜査員を始めいろんな人に踏まれてしまう可能性もある。」
警部が答える。
「それなんだがな、第一発見者の滝美野さんの足跡は分かるが、その滝美野さんの靴跡の下に一つはっきりしたものがあったんだ。靴のサイズ的に27cmで男物だが、運の悪いことに3人とも27cm前後でな。滝美野さんより前に誰かが被害者に会っていたことは分かるんだが」
忠司が慎重に言う。
「いやわかりませんよ、そう見せかけるためにわざと滝美野さんが大きい靴を履いて殺人を実行したあと、いつも履いている自分の靴に履きかえて第一発見者を装うことだってできる。」
「よくミステリー系のドラマなんかでありがちな、足跡偽装するやつですね!」
雅樹がポンと手を叩きながら調子づいて答えるが、忠司はそんな雅樹を尻目に警部に質問する。
「そういえば凶器は?絞殺、としかまだ聞いていませんが」
「凶器はどの家にもあるビニール紐だよ、ほら雑誌なんかを縛るやつ。首を絞められそれを緩めようともがいたのか、被害者の指先にビニール紐片がついていた。首を絞めたものは見つからなかったが、恐らくもう犯人が燃やすなりして処分してしまっているだろう。やよいさんの玄関の靴箱の上にも、いつでも使えるようになのか置いてあったし。とりあえずここまでだ、明日また関係者達から事情を聴くことになっているから、新しい情報が分かったら持ってくるよ。くれぐれも情報は漏らさぬようにな。」
そう言いソファを立ち上がる警部。
「またパチンコ行くんですか?随分ストレスたまってるわね警部さん。」
のり子にそう言われ警部はまぁな、とおどけて見せる。
「面倒な事件はすぐ俺に回ってくるんだよ、まったく。いつも君らに頼んで事件解決のために知恵を絞ってもらってるとは言えないがな。パチンコ打ってるときくらいなんだよ忘れられるのは、じゃあな。」
そういうと警部は事務所を去っていった。
22/9/13 凶器について詳細を追記。
22/9/14 読みやすいよう改行を増やしました。
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後を改行)
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