18章 浮つく気持ちと黒い嘘 -14
それから川島田さんと依頼人の霧島さんはしばらく話していた。
「かしこまりました。では20日間ほど調査期間をいただき、一度報告いたします。その際にもっと詳しく調査してほしい、という場合は期間をさらに延長します。」
「えぇそうしてちょうだい。もっとも他の女とラブホテルに入るという感じの決定的な証拠を押さえたら、その場で連絡をくださるかしら。」
ラ、ラブホテル!?私はもちろんそんなところ行ったことがない。ドラマなどで見たことはあるけれど、やっぱり現実でもあるんだ。ラブホテルで不倫する事案って。
「ではそのようにいたします。最後に旦那様の行きつけのお店や、休日に良く遊びに行くエリアなどをできるだけ詳しく教えていただけますか?桃子さまからの情報が詳しいほど、アタシ達の調査の精度も上がります。」
「そうねぇ、あの人はだいたい… … …。」
そうしてまた2人はしばらく話し込んだあと、桃子さんは依頼書に名前と押印をして帰っていった。私は川島田さんに呼ばれ入り口まで付いていき、立ち去る彼女を見送った。
ソファー席に川島田さんが座る。私は川島田さんが淹れてくれていたコーヒーを温め直し2人分を用意すると、ソファー席に持っていき対面に座った。
「ありがとう。ねぇ美羽ちゃん、今のご婦人の話を聞いてどう思う?」
「どうって…。別に嘘ついてる感じはしませんでしたよ?本当に旦那さんの浮気を疑っているんだと思います。」
「そうじゃなくて、実際あの人の旦那が不倫してるかどうかってことよ。美羽ちゃんの主観を教えてほしいわ。」
「そりゃ、私は絶対旦那さんが浮気してると思います!だっておかしいですよ、話しかけたらスマホの画面隠すなんて!愛人とのラブラブなメールを見られたくないんですよきっと。そういうのは決定的な浮気の証拠になるって、テレビでやってましたから。」
しかし川島田さんは浮かない表情だ。顔はうつむき加減で、右手で拳を作り親指と人差し指のところにできた窪みを顎に当てている。
「そう…。」
「えっ私何か間違ったこと言いました?あの奥さんだって、旦那が怪しいから証拠を掴むために依頼に来たんですよね?じゃあ話は簡単ですよ。尾行でもなんでもして決定的な瞬間を写真や動画におさめて、奥様に渡しましょう!」
「そうなんだけどね、確かに美羽ちゃんの言ってることは正しいわ。でも…。」
「何か引っかかることがあるんですか?」
「いえ、どうにもピーンと来ないのよ。アタシの直感が。」
は?直感?何を言っているのかなこの人は。だいたい直感でトラブルが解決できたら誰も苦労しないではないか。私はちょっと飽きれてしまった。話を変えてみる。
「不倫調査って、実際に調査したらハズレだったってこともあるんですか?」
「もちろんあるわよ。それこそさっきの桃子さんみたいに、夫が残業続きで怪しい!って依頼で夫の会社を調査してみたら、実は新事業をスタートしたばかりで本当に仕事が立て込んでいただけだったり。意外と多いのよ、パートナー側が変に勘ぐって勝手に浮気だ不倫だと騒いでいるケースがね。」
「なるほど。でも毎日のように有名人の不倫報道をテレビやスマホのニュースで目にしていると、ウチは大丈夫かしらって不安になってしまうのかもしれませんね。」
いつも閲覧・評価ありがとうございます。感想・誤字の指摘などありましたらよろしくお願いいたします。
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




