18章 浮つく気持ちと黒い嘘 -10
ただいま。私が家に到着すると、両親が玄関まで走ってきた。2人の表情は一人娘が無事に帰ってきたことに安堵しつつも、こんな遅い時間に帰宅したことに驚いたとでも言うような、複雑な表情をしていた。遅い時間と言ってもまだ21時だけれど、それも無理もない話。私は学生時代アルバイトはせず部活にも所属しておらず、友達と学校帰りに遊ぶというようなこともなかった。一応居酒屋へ向かう道中にご飯を食べてから帰るとメールしておいたのだけど。
両親と一緒にリビングに入ると、私は何でも屋さんで働くことになったと告げた。両親は、特にお母さんは涙目になって喜んでくれた。両親とも私の特性を知り、いつも心配してくれていた。そのくらい一つ屋根の下で暮らしていたのだから私だってよく分かっているつもり。職場の人たちも良い人そうだと話すと改めて安心したようだ。ただし早めに履歴書を作って出さなければという話をすると、お父さんは早速履歴書の用紙を買いに家を飛び出していった。そのくらい私が一人で準備すると言っても聞かなかった。それに証明写真を取らないと履歴書だけ書いても意味がないのに、とお母さんも苦笑いしていた。
お父さんがすぐに帰って来ると、私達は久しぶりに夜遅くまで家族で会話した。そういえば私は、高校を卒業しても引きこもっている自分に負い目があって、今まで両親とまともに会話できていなかった。お父さんもお母さんも、こんなに話好きな人だっけ?と私が混乱するくらい、気づけば日付が変わるまで会話していた。
私はお風呂や歯磨きを済ませ、今から自分のベッドで寝るところだ。改めて一人になって考える、何でも屋って何をするんだろう?そういえばチラシにはゴキブリ退治や引っ越しの依頼が来るとか書いてあったな。虫退治ならなんとかなりそうだが、力仕事は苦手だ。どう考えても引きこもりの私が力仕事などできるわけがない。でもあの川島田さんって女性、きっと怒らせたら怖いだろうな。怒らせないようにするにはイヤでも頑張って仕事しなきゃな…そんなことを考えていたら、いつの間にか寝ていた。
翌朝、私はスマホのアラームを大音量でかけてなんとか朝6時に起きた。こんな時間に起きたのは、学生時代のクラス対抗合唱コンクールの朝練で無理やり集合させられたとき依頼だ。そもそも引きこもり生活では早起きする必要がなかったからね。
私はさっそく身支度を済ませると、昨夜両親が話しながら手伝ってくれた履歴書を忘れずバッグにしまう。証明写真はどこか道中で撮り、提出前に貼ればいいのだ。
朝ご飯も久しぶりに両親と一緒に食べた。2人とも嬉しそうだったけど、私はなんだか恥ずかしかった。お母さんがお弁当も作ってくれたので、それを持って事務所へ向かう。
こうして私の何でも屋スタッフとしての生活が始まった。
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