18章 浮つく気持ちと黒い嘘 -3
ソファに座っているとなんだかとても良い匂いがしてくる…。私は少し室内を見回してみた。貸しビルの1フロアを借りているみたいで、お世辞にも広いとは言えないがそれでも整然とされた室内は清潔感がある。
「良い匂いするでしょ?このお茶はね、お客様用のちょっとお高いやつなの。」
心の声が漏れていたようで私は恥ずかしくなった。それぞれお皿に乗ったお茶とお菓子を私の正面のテーブルに乗せてくれると、対面のソファに座りながら女性が話しかけてくれる。
「アタシは川島田のり子と申します。この事務所のスタッフの一人で、受付から実務までこなしているの。あなた素絹さんでしょ?珍しい苗字で呼びにくいから美羽さんって呼んでも良い?」
「はい。あの、なんだか私、すみません…。」
「なんで謝るのよ?」
私が謝ったのは目の前の美女がスーツだからだ。それに対して私は私服、どう見ても場違いなのは世間知らずの私でも分かる。スーツでいけと忠告してくれなかった家族をちょっと恨んだ。
でも私の反応とは逆に、目の前の彼女は笑い始めた。
「アハハ、良いのよ。スーツはアタシが勝手に着ているだけ、あなたにスーツを着てこいなんて言った覚えはないわ。それに服装なんてどうだっていいの。アタシ、あなたの叔父さんに嘘を見抜ける能力があるって聞いて呼んだのだけど、それは本当なの?」
「本当です。」
よかった、私服で来るなんて非常識よ!と怒鳴られたら私は間違いなく泣くであろうと思ったから。
「うーんでも、本当かどうかやっぱり怪しいわ。アタシを実験台にしていいから、美羽さんの能力をどうにか証明してくれないかしら?」
「あ…それなら、私に対して嘘をついてくれればいいです。私は嘘を言い当てますから。」
「じゃあこうしましょう。アタシ、お酒を飲むのが結構好きなの。だけどもちろんすべてのお酒が好きというわけじゃなくて、嫌いなものもあるわ。今からいくつかお酒の種類を言うから、アタシの嫌いなお酒を言い当てられる?」
「分かりました。」
「アタシ、ワインが好きなの。」
「発泡酒も好きね。」
「■ビールも飲み会なんかに欠かせないわよね。」
「ハイボールもいいわね。」
「ビールですか?今挙げた中で嫌いなのは。」
「すごい…本当に分かるのね。じゃあもう一つ良いかしら?今度はアタシのタイプの男について。」
「どうぞ。」
「アタシ、顔が整ってる人がタイプなの。いわゆるイケメンってやつ?」
「あと痩せすぎず太りすぎず、極端すぎない体型がいいわね。」
「性格で言うなら気遣いのできる男かな。無神経なのは無理。」
「それからやっぱり一途な男ね。」
「今のお話に嘘は見当たりませんでした。つまり川島田さんは、イケメンで・極端すぎない体型で、気遣いのできる・一途な男性が好きなんですね?」
「わぁーすごい!嘘を見抜くっていうから本当のことだけを並べてみたんだけど、あなたやるじゃない!」
ちょっとオーバーリアクションかなと思うけど、こういうリアクションをもらえるのは素直に嬉しい。なぜなら私が百発百中ウソを見抜くことで、気味悪がって化け物扱いしてくる人もいるから…。
「ねぇあなた、薄々勘づいてると思うけど、この事務所で働いてみない?」
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