17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -38
ダラダラと過ごしていたらもう閉店時間に差し掛かっていて、他のお客も既にいない。ほぼ雅樹が酔いつぶれているのでのり子が2人分のお会計をまとめて済ませ、出口でそのままタクシーに乗せた。のり子もすぐにもう一台のタクシーを捕まえて乗り込む。それを見届けたマスターと店員達はのり子に一礼すると店内に戻って行った。
自宅に帰りサッとシャワーを浴びる。彼女は酔ってはいるが、記憶も足取りもしっかりしていた。むしろ
(雅樹くん半分寝ていたけど、ちゃんと自宅に帰れたかしら…)
と、歯磨きしながら先に返した彼の方を心配しているくらいだ。
ベッドに入り部屋の電気を消すと、のり子はすぐ夢の世界へ旅立った。
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アタシはまた、夢を見ていた。
ここは、火事になる前の山神さん宅だ。そしてアタシは今、門の前に立っている。いつも遊びに来たときはこの門の横にあるインターホンを鳴らし、芽衣子さんが玄関から門を開けに出てきてくれたものだ。時間は早朝…?淡い光に世界が包まれているが、気温は感じない。
だってここは夢の世界ですものね。その証拠にアタシ、目の前にあるインターホンを押そうとしても腕が動かないんだもの。動けないからその場でじっとしていると、不意に頭上がピカッと光ったの。例えるなら一瞬懐中電灯をピカッと光らせた感じ?
首だけは動くから見上げたの。そうしたら芽衣子さんがいたわ。この家で焼死したはずの、芽衣子さんがね。優しい目で、2mくらい上からアタシのことを見下ろしていた。
アタシは口を開こうとしたけど言葉が出なかったの。だから心に念じることにしたわ。
(芽衣子さん、ごめんなさい。アタシはあなたの当時の旦那さんの罪を暴いてしまった…。)
テレパシーっていうのかしらねこういうの。芽衣子さんも口は動かさないんだけど、彼女の言葉はアタシの脳内に響いてきたわ。
(気にしないで、むしろ真実を知らしめてくれてありがとう。これであの人も少しは救われるんじゃないかしら…。)
(救われる?あの男は芽衣子さんを殺した張本人ですよ?もしかして、許すとでも言うんですか?)
(今にわかるわ…あの人、今も大変なのよ。壊れそうなくらいにね。このままだときっとまた同じ過ちを繰り返してしまう。私はそう思ったから、のり子ちゃんに思い出してもらったの。ごめんなさいね、嫌な思い出をほじくり返すようなことをして。)
(アタシはそんな…むしろ芽衣子さんのことを思い出せて良かったから。それにしてもあの人が大変ってどういうこと?)
(ごめんねのり子ちゃん、もう時間みたい。あの人は大丈夫、いつかこっちの世界に来たら、私がウンと説教するから!さぁ起きて…ありがとう。)
(待って芽衣子さん!)
気付いたときには頭上のスマホのアラームがけたたましく鳴っていた。
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