17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -34
「ライターなんて物騒なもの使わないで、ちょっとコーヒーでも飲んで落ち着きません?」
のり子は意を決し、ドリンクボトルの蓋を開け祥吾へ差し出した。先程雅樹に分けたが、まだ半分くらい残っている。湯気もまだまだ元気に立ち上がっている。
「はぁ?ふざけてんのか。そんなもんいらねぇよ。」
「遠慮なんていりませんわ。あっ!」
そう言いながらのり子はドリンクボトルを持った手を思いっきり差し出し、傾ける。当然ドリンクボトルから溢れ出たコーヒーは、祥吾の左腕に降り注ぐ。
「熱い!何すんだテメェ!!」
そう言いながら怯み、思わずライターを落としてしまう祥吾。ライターを落としてしまっては、当然爆薬へ着火することはできない。のり子はこれを狙っていたのだ。
「今だ!」
警部の声に、元警察官の忠司が動く。祥吾がライターを拾おうとしたその腕を捻り上げて背中からのしかかり、そのまま抑え込んだ。
「痛ェ!」
「山神祥吾。爆発物取締罰則等の現行犯で逮捕する!」
彼は警部の部下にそのまま手錠をかけられ、文字通りお縄に付いた。
「いやー助かったよのり子くん。金庫を持ってきたときにコーヒーの匂いがするなと思っていたが、まさかキミが持っていたとはね。ただ警察の前で"人に向けてわざと熱々のコーヒーをかける行為"は立派な傷害罪になるのだが…。」
「いやですわ警部さん、アタシはただ祥吾さんにコーヒーをごちそうしてあげようと思っただけよ。よく言うでしょ、手が滑っちゃったのよ。」
誰がどう見てもわざとぶっかけていたのだが、それを物的証拠で立証するとなると難しい。またのり子のお陰で証拠品が守られ、爆発が防がれたのも事実だ。
「まぁわざとじゃないなら仕方ないな。ただ今後はアツアツコーヒーの取り扱いには十分気をつけるように。」
「はーい。」
のり子が敬礼すると、警部は敬礼し返し去っていった。警察署内で犯人の緊急逮捕、しかも長年"事故"として扱われていた一件が実は殺人事件だったのである、一課の警部である彼はものすごく忙しくなるだろう。
「のり子さん、お手柄ですよお手柄!殺人犯の逮捕に協力なんてすごいですね。オレ目の前でこんなやり取りが行われて未だにドキドキしてますよ!」
「あら、アタシはただ芽衣子さんのスマホのロックを解除して、祥吾さんにコーヒーをごちそうしてあげただけよ?それに彼の気を引き付けてくれたのは雅樹くんじゃない。金庫も開けてくれたし。」
「忠司さんもすごかったですね、流れるように犯人を取り押さえちゃって。さすが元警察官だけありますね!」
「それよりこの部屋を出るぞ、机や椅子に触らないようにな。犯人逮捕の現場になったわけだから、今から現場検証が始まるぞ。」
忠司が言い終わる前に、大勢の警察官・検察官たちの足音が聞こえてきた。
部屋の外で3人は現場検証の様子を見ていた。
「何にせよ、アタシ達3人誰かしらが欠けていたら今回の件は解決しなかったわね。こういうのを運命のイタズラとかって表現するのかしらね。」
「それより帰りましょうよ、オレ腹減りましたよ。コーヒーの匂いってどうしてこう食欲をそそるんでしょうね?」
「ホントよね。さ、行きましょ。」
「悪いが夜まで帰れないと思うぞ。俺達は犯人逮捕の現場に居合わせたんだからな、今から一人ずつ事情聴取が待っている。」
のり子・雅樹「「えぇーーーッ!」」
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