17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -24
アタシは昔から直感が鋭いタイプだった、それは今もだけどね。女の勘というよりも、第六感という方が正しいかもしれない。
アタシはなぜこの記憶が今まで消えていたのだろうと不思議に思う。例えば頭を殴られたり、目の前で殺人を目撃して大きな精神的ショックを受けたのなら理解ができる。しかしアタシの場合、仲の良い知人夫婦の奥さんが火事で亡くなってしまったというだけである。そりゃ銀行ではほぼ山神さんしか話し相手がいなかったし、月に数回プライベートでも遊ぶ仲ではあったけれど、記憶が封印されるほどショックだったのだろうか?記憶を思い出しかけている今はその点が気になっていた。
しかしアタシは後に、"自分自身がこの記憶は封印しておくべきだと察して自発的にその部分の記憶を隠していた"ことに気づくことになる。
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某日 9:00 のり子の自宅
『その金庫の話なら前にも聞いたが、俺にはさっぱり分からんよ。』
アタシはすっかり目覚めて、同じ事務所で働く八重島さんに電話をしていた。彼は元警察官、当然例の事故で耐火金庫が遺品として回収されたことは知っている。だが当時の警察も何パターンか試したものの、結局開けることはできなかったそうだ。
『火事で亡くなった女性がどこかに金庫のナンバーのヒントを記していたにしても、ほとんど焼けてしまったからな。金庫本体にも意図的に付けられた傷やメモ書きは見当たらなかったようだし。俺も同僚がその火事の調査に行ったから知恵を貸してくれと当時頼まれたけど、力になれなかったよ。それにそういうのは雅樹の方が得意だろう、アイツはゲームやパズルが好きだからな。雅樹に聞いてみたらどうだ?』
そう言われて電話を切られてしまった。ま、せっかく助言をもらったからには雅樹くんに聞いてみましょう。
『おはようございます、今日は休みですよね?何か急用ですか?』
数年前にアタシの知人が火災事故に遭ってね。そのとき金庫が焼け残ったんだけど、警察もいろいろあって無理やり開けたりできないみたいで。ちょっと協力してほしいのよ。
『要するに、暗証番号の解読ってことですか?オレで良ければ話聞かせてください。』
アタシは金庫の話を雅樹くんに伝えた。もちろん山神さんやその旦那から聞いた話も含めて。電話口の雅樹くんはなにやら紙にメモしているのか、ペンを走らせる音が聞こえてくる。
『なーんだ。…のり子さん、この金庫の暗証番号って案外簡単かもしれませんよ?ちなみにその金庫のナンバーを設定した奥様のことをもう少し聞かせてください。』
アタシは電話口で思い出したことを伝えた。その夫婦はお互い愛し合っていたこと、彼女は仕事も家事もそつなくこなしていたこと、子どもができなくて悩んでいたこと、アタシと山神さんはプライベートでも遊ぶ仲であったこと…。
『じゃあ、多分コレですよ。説明したいので事務所に来ていただけますか?』
アタシは金庫のナンバーが分かるならと承諾した。ついでに八重島さんにも連絡を入れ、アタシは軽く身支度を済ませると事務所へ向かった。
あの金庫には何が入っているんだろう?
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




