17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -23
お見合い!?アタシは思わず聞き返してしまった。
「えぇ、でも親が決めた見合いですよ。さすがに親も僕のこんな状態を心配したようで、一人きりで家にいる今の環境を変えたほうが良いと。僕の方からもお願いしたんです、とりあえず会ってみるだけでもと思いまして。」
それを聞いてアタシも思うところがあったが、あくまでも彼の人生だ。どういう選択をするか、アタシが口出しすることじゃない。
「言いたいことはなんとなく分かりますよ。でも僕、このまま一人で家でいたらダメになりそうな気がして。彼女を失ってから仕事も家事も、目標というかやる気が出ないんです。あぁ心配いりませんよ、芽衣子のことは一生忘れるつもりはありません。そういう気持ちでお見合いに望むんです。」
どういうことかしら?
「さっきの話の続きなんですが、親が決めたお見合いなんですよ。つまり相手の女性もとある企業の一人娘さんでね…。要するに政略結婚みたいなものですよ、昔からあるでしょう?国と国が同盟のために自分たちの王子と王女を結婚させる、みたいな。それは相手の女性も分かってることです、つまり世間的な恋愛結婚とは事情が違うんですよ。」
お金持ちの世界ってやっぱり大変ね、アタシは口には出さなかったがそう思った。でも確かに、山神さんならいつまでも私のことでクヨクヨしてないで、新しい人生頑張りなさい!って言いそうな気がする。アタシは彼女の墓に花を手向けて両手を合わせると、あとは彼に任せて先に帰った。
そうだった…アタシこの辺の記憶がどうして丸々抜け落ちたかのように今まで思い出せなかったんだろう?
この頃女性としての憧れであり仲の良かった山神さんがいなくなったショックで仕事も手につかなくなったアタシは、銀行を辞めた。そしてフラリと寄った居酒屋で、日の出警部と出会ったのよ。このときはほぼ初対面だったから、よそよそしく接してしまったわアタシ。
「あれ?キミは年末の高級住宅火災事故のとき、現場に来ていなかったかい?」
もちろん誰か分からないアタシは、隣の席から馴れ馴れしく話しかけてくるその中年男性に警戒心剥き出して応答した。
「…どちら様ですか?」
「お、そんな怖い顔しないでよ。キレイな顔が台無しだよ?」
そう言いながら警部は声を潜め、アタシに耳打ちするように言った。
「大きな声で言えないんだけどね、私は捜査一課の警部なんだよ。あの火事、他殺の線でも捜査されていたからね。私も一応現場を見に行ったんだよ。その時だな、キミを見かけたのは。キレイなお嬢さんだったからよく覚えているよ。」
そのとき店員さんに知り合いに会ったからと言って、警部と店の端の個室に移動させてもらったんだっけ。
「キミはあの亡くなった女性と同じ銀行で働いているんだろう?」
「えぇ。でも、もう辞めてしまいました。山神さんがいない銀行員生活って、やっぱりアタシにはなんだか耐えられなくて。それに山神さんがいたときと亡くなった後で、毎日そのギャップが苦しくて…。」
「そうか。もし働き先を探しているなら、私の部下がなんでも屋を開業しているから、そこを当たるといい。話は通しておくから。」
そう言って、事務所の住所を教えてくれたのよね。
「キミ、男前は好きかね?」
その質問にアタシがもちろんと答えると、警部さんがニヤリと笑ったのよ。それでアタシ、何でも屋さんの女性職員に転職することになったんだ。
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