17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -21
そういえば…火災の数日前、銀行の休憩時間に好きな数字の話になったことがあったわね。確かそのとき山神さんが雑誌を読んでいて、ラッキーナンバーの話になったんだっけ。
「のり子ちゃんって好きな数字あるの?1~12で答えてね。」
いつも通り彼女と一緒に休憩へ入っていたアタシはそう聞かれて、特に何も考えず7と答えた。やっぱりラッキー7だし、縁起は良いに越したことはない。するとそれを聞いた彼女はいたずらっぽく笑いながら答えた。
「7かぁ。素敵な数字だけど、私はそれよりもっと好きな数字があるな。正確には数字の並びだけど。」
そうだ…彼女、そんなこと言っていたんだ。私はもっと深く思い出してみる。
「じゃあ、山神さんの好きな数字ってなんですか?それに並びってことは、何桁かあるんですか?」
「えぇ。まずは3ね…3がね、私の中ではキーナンバーなの。正確には最初が3。」
最初が3…?どういうことかしら?
「あ、じゃあ3150とか?語呂合わせで3150だから!」
「うーん考え方は悪くないけど、5個の組み合わせとも言うべきかしらね。それに語呂合わせじゃないわ、残念!そうだ、これ私からのり子ちゃんへの宿題ね。分かったら、うちの金庫を開けられるわよ。とっておきのものを入れておくからぜひ見に来て!もっともこの宿題には制限時間があって、あと半年経つ頃には強制的に答え合わせみたくなっちゃうんだけどね。そのとき金庫の中身を見たみんなは必ずこう言うはずよ、『あぁなるほどね、確かに早めに見つけておけばもっと驚いたはずだ』ってね。」
そうだ。アタシはその話を、亡くなった山神さんの旦那にも伝えたんだ。あれは確かお葬式の日、きっと金庫のことを気にしているだろうと思って、一通り済んだときに話しかけて教えてあげた。その時の彼はとても驚いた顔をしていた。
「他には!?妻は金庫の暗証番号のこと、他には何か話しませんでしたか!?」
彼は私の両肩を強く掴み鬼気迫る勢いで聞いてきた。アタシは正直怖くなってしまい、そんなアタシに気づいた彼はすぐに手を離し謝罪してくれたけど。
「あ…すみません。実は警察の方が、自殺だったんじゃないかと…そういう線でも調査していると言われたので、気が動転してしまって。」
自殺?彼女が?
「聞かされていませんか?僕の両親から早く跡継ぎを産むようにプレッシャーを感じていたと。僕もそれは妻から聞いていました。不妊治療にも行くくらい真剣で、けっこう思い悩んでいたようでしたから。それで火事の数日前から妻の様子がおかしく、急に明るくなったんです。その時は何か良いことがあったんだろうくらいにしか思っていませんでしたが。悩み抜いた挙げ句、死を選んだのではないかと。だっておかしいでしょう?アロマキャンドルを点けっぱなしでわざわざ地下室へ行きますか?普通消してから地下室へ降りるでしょう。忘れてしまっただけかもしれませんが…。」
アタシは黙って聞いていた。たしかに子どもがなかなかできなくて彼女が相当悩んでいた姿は、アタシもこの目で見ていたから。
「それでもし妻が自殺したんだとしたら、金庫の中には遺書が入っている可能性が高い。普通に置いておいたら燃えていたでしょうが、アレは耐火金庫。そこに入っていれば高確率で無事なまま、警察の手に渡るからです。僕は夫としてあの金庫を開け、妻の遺書を…最期に妻が残したメッセージを読み解きたいんだ。」
しかしこのときのアタシは、まだ金庫のナンバーが分からなかった。分かり次第連絡しますと言ってその日は帰宅した。
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