17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -14
それからアタシは数年、その銀行で働き続けたわ。辞めたいと思ったことは何度もあったけど、山神さんがその度に励ましてくれた。銀行を辞めたらせっかく彼女とお友達になれたのにその縁が切れてしまいそうな気もしていたから、頑張って仕事を続けられたんだと思うわ。あの時まではね。
アタシは大人というものを甘く見ていたように思う。というのも学生時代は、大人になったら職場や合コンで素敵な人と知り合って、大恋愛の末に結婚。子どもも産んで家も建てて…と、よくドラマや漫画などにある典型的な幸せ家庭像に漠然と憧れていた。また自分もなんとなくそんな人生を歩むような気がしていた。
ところが現実はどうだろうか?確かに銀行員は男女で働く職場だから、女性だらけ・男性だらけの職場より出会いはあるのかもしれない。しかし少なくとも実際にアタシが働いた感じでは、日中はほぼお客様の相手だし男性陣もほとんどパソコンと向き合っていて職場恋愛に発展するような気配は微塵もなかった。
じゃあお客様との出会いはどうかと言えば、銀行に来るお客はあくまで貯金の入出金や融資の相談などに来るだけだ。そう、恋人探しにわざわざ銀行に来る人はいない。というわけでアタシの職場恋愛事情はゼロと言っても過言ではなかった。
ただそうやって嘆いているだけで出会いが舞い込むほど人生は甘くない。アタシはどこか冷静に、かつ客観的にそういう判断を下していた。なので学生時代の友人から合コンのお誘いがあった時や、相席居酒屋へ行かないかと声がかかったときは断ることなく全部行った。ガツガツしていると思われるかもしれないけれど、職場恋愛に期待ができない以上職場の外に出会いを求めるしかないでしょう?
正直、合コンや相席居酒屋は結構楽しかった。アタシは特に男性と話すのも抵抗がないタイプだから、コミュニケーションがきちんと取れる女性として相手も話しかけやすかったんだと思うわ。
けれど不思議とこの人だ!ってビビってくる運命の人とは出会えなかったのよね。顔がタイプだとか一緒にカラオケしてて楽しいなんて、そういう一時の満足感は得られたんだけど、そこから恋愛には進まなかったわね。
アタシはもしかしたら、お金持ちの御曹司とそれを支える仕事も家事も完璧な妻という山神夫婦に憧れすぎていたのかもしれない。山神夫婦みたいになりたい!という理想像に無意識に捕われて、パートナーに求めるハードルがどんどん上がっていたのかもしれなかった。何もかも自分の理想通りの相手なんて、まずいないって頭のどこかでは分かっているのにね。
山神さんは相変わらず仲良くしてくれた。ただアタシも山神さんも銀行の同僚達より、学生時代の友人や趣味を通じて知り合った仲間など、外の世界に繋がりを求めた。そういうところが似た者同士だったから居心地がよかったのかもしれない。
アタシは一度、合コンや相席居酒屋へ言ってもなかなか良い人と巡り会えないと彼女に相談したことがあった。
「きっとのり子ちゃん、今恋愛するタイミングじゃないのよ。ホラよく言うでしょ、恋愛も結婚もタイミングが大切って。きっと自分磨きや仕事を頑張りなさいって神様が言ってるのかもしれないわ。大丈夫よ、のり子ちゃん美人なんだからきっと素敵な人と出会えるわ。それに無理に焦って、例えばすぐ暴力振るうような男と結婚しちゃったら最悪よ?」
そう言われた時、自分の心を言語化されて確信を突かれた気がした。いろいろな場所へ出会いを求めてに行っても思うような成果が出せない、次に繋がらない…。アタシはきっと人生を焦っていた。頭の良い彼女にはお見通しだったというわけね。
ただ1つ、アタシには気になることがあった。
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