17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -11
彼女はそんなアタシの不安を察したのか、聞く前に説明してくれた。
「心配しなくても大丈夫、この家は警備会社の人と契約していて半日に一回見回りが来るの。つまり閉じ込められても連絡が付かなければ勝手に大騒ぎになるってわけ。それに地下って言ってもそんなに深くないからWifiや携帯キャリアの電波も入るわ、いざとなったら消防に電話すればいいってわけ。」
へぇ~なるほどね。まぁそうよね、地下室を作るとなったら閉じ込められるリスクをまず考えるわよね。っていうか自宅にカラオケがあるなんて素敵!好きなときに好きなだけストレス発散できるじゃない。
「よかったらカラオケしに来る?料金かからないわよ。」
そう言って笑う山神さんが、アタシには女神に見えた。もちろん是非近い内にまた来ますと返事しておいた。
「それにこの部屋はね、とっておきの秘密があるの。」
そんなことを言われたら気になるのが人の性というもの。でもそんな大切なことをアタシに教えちゃっていいのだろうか?
「大丈夫よ。アタシのり子ちゃんと仲良くなれて嬉しいんだから!気にしないで。それにそもそもこの地下室の存在を知らないと、秘密を知っても意味ないし。」
アタシの方が年下なので、いつの間にかのり子ちゃんと呼ばれるようになっていた。まぁそれは置いておいて何かしら秘密って。
「いい?このカラオケ機材の後ろの壁…ほらここ、ココだけちょっと色が違うでしょ?」
言われてみると、よーく見れば一箇所だけアスファルトが長方形の形にくすんでいる。カラオケのモニターで影になっているので電気が付いていてもわかりにくいが、スマホのライトを使って照らすとよく分かる。例えるならマッチ棒の容器くらいのサイズだ。
そこを山神さんが押し込むと、ボコッと音がして足元の壁が後ろにスライドしたあと横に消える。よく見るとここにもレールが仕込まれていて、ボタンを押すと移動する仕組みになっているみたいね。
覗いてみて、と言われてその穴をライトで照らしながら除くと、奥には家庭用電子レンジくらいのサイズの金庫があった。すごい!
「私も最近気付いたの。設置したのはいいものの、使われていなかったみたいで鍵はかかってなかったし、中身も空っぽだったけど。のり子ちゃんも何か貴重品があればここに入れておくといいわよ。もっとも取り出すのも大変だけどね。」
それもそうですね、とアタシが言ってひとしきり笑った。
さて大体のルームツアーも終わったのでアタシ達は地下室から出て、ホームパーティの準備を始めた。と言っても山神さんは既にパイを焼いてくれたりサラダやデザートを冷やしてくれていたので、アタシが買ってきたものと合わせて、やたらと広いテーブルに並べるだけだったけれど。
「両側に満席に座ると16人くらいまで同時に食事できるらしいのよ。今は私と旦那しか住んでないから、こんなに広いとむしろ寂しいだけなんだけどね。」
元々会社の会議などに使っていたと言っていたから、このテーブルもそのために設置されたのだろう。スペースを持て余しすぎて夫婦が使っているであろうスペース以外は、花や小物が置いてあった。椅子だけは数が足りない、きっとどこかで使っているのでしょうね。
「さぁ、始めましょ!」
山神さんが作ってくれたシーザーサラダ・ホットパイ・ローストビーフ・オニオングラタンスープ…そのどれもが舌づつみを打つほど美味しかった。銀行員なんて辞めて今すぐどこかのレストランに女性シェフとして即採用されるんじゃないですか、お世辞抜きでアタシはそう言った。
「あらありがとう!実はね、料理の腕にはちょっと自信があるのよ。のり子ちゃんにそう言われて、ますます自信付いちゃった!」
そう言いながら彼女はまた眩しい笑顔で笑った。
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