17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -5
Bar.NAOKI入店30分後。
アルコールが回り上機嫌になった雅樹は、隣の女性客達と一緒にカラオケ大会を始めた。どうやら年齢が近いらしく、採点モードで点数の低い人に罰ゲームを課すなどして、和気あいあいと盛り上がっている。勝手に楽しんでいるみたいだし放っておきましょう。
「へぇーなんでも屋さんですか。そういえば一度ビラを見たことがありますね、あれお客さん達の事務所だったんですか。」
「お恥ずかしいですわ。ただ毎日毎日依頼が舞い込むわけでもありませんから、暇な日はビラ配りでもして少しでも知名度アップしようってわけでして。アタシ達の仕事って大体ビラを見て依頼に来るか、誰かの口コミで紹介されて依頼に来る人がほとんどですから。」
「自分のなんでも屋さんに対するイメージってゴキブリ退治とか、引っ越しの手伝いなんかに駆り出されてる感じを想像しているんですが。」
「もちろんそういう依頼も来ますわ、アタシは出動しませんけど。それに意外と警察が手こずるような難事件も、アタシ達が情報提供して解決に導いちゃってたりして。」
言ってから、しまったと思うのり子。警察との関わりは秘密にしておくべきだ。
「じゃあテレビドラマの名探偵みたいですね、警察と一緒に捜査しちゃうみたいなこともあるんでしょう?」
「あ、いやいや。そうだったらいいなっていうアタシの願望よ。警察がアタシ達みたいな素人の一般人を頼りにするわけないじゃない?実際の依頼だってベビーシッター代わりや犬のお散歩を決まった時間に行ってくれというようなものばかりですわ。」
「ははは、警察に解決できない事件じゃどうにもならないですよね。」
危なかった、なんとかごまかせたかしら。マスターはずっとアタシと話しているわけではなく、他の席のお客さんから注文が入るともう一人カウンターにいる店員と一緒にお酒を作ったりしている。次にアタシの前に戻って来た時、マスターは意を決したように口を開いた。
「それより、なんでも屋さんにご紹介したい人物がいるんです。もしかしたら皆さんのお役に立てるかもしれません。」
「あら何かしら、イケメンなら大歓迎よ?」
カウンターで向かい合うのり子とマスター。彼は苦笑いしながら続ける。
「自分の姪っ子なんです。今年18になるんですが、なんと言いますか…ちょっと変わった子でして。」
「変わってる?どんな風に?」
「"人のウソが分かる"んです、その子。それも恐ろしいほどの的中率で。そのせいで周りの人から不気味がられてしまい、本人も人間恐怖症になってしまっていて。今年高校を卒業したというのに職も定まらず、ただ自分には姪っ子をどうにかしてやりという気持ちもありまして。」
のり子は半分酔った頭だったがなんとなく、このマスターは本気で悩んでいるように感じた。それと同時にやたらマスターの言葉がよく聞こえるなと思ったら、店内がかなり静かなことに気付いた。満席だったはずの店内はいつの間にか半分ほど客が帰っていたようで、隣のカラオケ大会も終わっている。雅樹と一緒に歌っていた女性陣達はみんな歌い疲れと酔いが回ったのか、机に突っ伏したり肘をついたりしてウトウトしていた。
のり子は構わずマスターと会話を続ける。
「お力になれるかはわかりませんが、おもしろそうですわ。ちょっと会ってみたいですねその姪っ子さん。それに本当にウソが分かるとなれば、たまに舞い込む浮気・不倫調査のエキスパートになってくれそうですし。」
「おっ、ありがとうございます!それでは連絡先を教えていただけますか。」
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