17章 アタシの、煙に巻かれた、記憶。 ~Memory Memory~ -1
都内某所 20:00
のり子と雅樹は事務所を閉めたあと、お目当てのBarへ行く前にファミレスで軽く食事をしていた。空きっ腹にアルコールを入れると酔いやすい上に、しかも悪酔いしやすくなるからである。のり子は明太クリームパスタを、雅樹はハンバーグとチキンステーキのプレートに大ライスを組み合わせていた。
「それにしても雅樹くんよく食べるわねぇ。ランニングは続いてるの?」
「えぇまぁ、腹減っちゃって。でも普段走ってるからこの体型を維持できてるんですよ、これで走るのを辞めたらブクブク太るのは自分でも分かってます!」
じゃあ食べる量をもう少し節制すればあっと言う間に痩せるんじゃないかしら…。のり子はそう思ったが、本人が食べたいのだから仕方ないだろう。
それまでは雅樹が食事に食らいつき、必然的にのり子もあまり会話せず食事をしていた。ドリンクバーエリアから3杯目の日替りスープを持ってきた頃、雅樹の空腹も収まったのかようやく会話する気になったようだ。
「のり子さんって元銀行員だったんですよね?それなのにパソコン苦手なんですか?銀行の人ってパソコンでいろいろお金の管理などをしてるイメージですけど。」
「そうね。でもアタシは電話対応や窓口案内の担当だったのよ、閉店後は伝票管理や書類整理ね。もちろんパソコンを使うこともあったけど、お客様の名前や住所を決まった場所に入力するくらいで難しい操作は無かったから。エクセルとかワードとか、そういうソフトってアタシは使わなかったのよね。もちろん入出金の情報入力する人は1日中パソコンと向き合っていたから、そういう人はきっとパソコンのスキルもすごいと思うけど。」
「あ、そっか。銀行員と一口に言ってもそれぞれに業務担当がありますもんね。オレも居酒屋で働いたことありますけど、居酒屋も電話や来客対応担当・キッチン担当と大まかに分かれますからね。」
「そういうこと。そんなことよりそんなにたくさん食べて眠くならないの?お願いだからBarで寝ないでよね、マスターに迷惑かけたら承知しないわよ。」
のり子が心配するのも当然である。人間は食事の後は血糖値が変動するため眠くなる、このあとBarでアルコールを摂取するとなれば余計である。彼女は雅樹が一人で眠りこけるのはどうでもいいが、自分に対するマスターからの好感度を気にしているのだ。
「大丈夫ですよ!むしろ空きっ腹で酒を飲み、悪酔いした挙げ句ゲロ吐くとか最悪ですよ。それなら酔ってすやすや静かに寝ている方がよっぽどマシでしょ?」
雅樹からそう言われて、それもそうねと妙に納得してしまったのり子であった。
一応眠くならないようにとお互いコーヒーを飲んでから食事を済ませ、改めてBarに向かって歩き出す2人。両者それなりに緊張しているようだ。
(もし会って早々イケメンマスターがアタシに一目惚れして、熱烈に口説かれちゃったりしたらどうしましょ!でもダメよ。デートは朝、遅くても昼に会ってくれるような男じゃないとね。)
(ふふふ、女性客が多いBarかぁ。のり子さんには悪いけど、めっちゃかわいい子と知り合えたりして。そしてその子はオレと話題が合ってデートを重ね、来年には結婚かな?)
妙なところで似た者同士の2人である。
東京23区内の夜は賑やかだ、特に各駅の周辺は。時刻は21時をすぎているというのに看板の光や店の明かりに照らされて、むしろ眩しいくらいの場所もある。路上演奏をする駆け出しの歌手や、自前のライトやカメラを設置しダンスパフォーマンスをする若者たちがいるエリアは、夜だというのにむしろ騒がしい。
そんな喧騒を抜け2人は居酒屋やBarが立ち並ぶエリアにやってきた。このエリアも人が行き来しているが、先程までの喧しさと比べたら驚くほど静かに感じる。
「あった、あそこね。」
のり子が地図アプリを見ながら指を差すと、その店はどうやら貸しビルの一階を借りているようである。明るいブルーのライトに照らされ、Bar.NAOKIと看板が出ていた。
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




