16章 謎の女-50
(冷静さを失い始めたぞ。このまま追い詰めるんだ!)
「それでは銀持さん、このまま寿命を迎えるまでずーっとその女の人の影を気にしながら生きていくんですか?人間だから眠らないわけにいかない、しかも夢の世界に出てくるのであれば現実世界のオレ達にはどうしようもない。そんな生活をこの先も続けるおつもりですか?」
「そ…それは…。」
オカルトは信じない。先ほど確かにそう言い放っていた銀持だが、しかし慢性的な睡眠不足は確実に彼の体力も精神も蝕んでいるようだ。
しかしここで銀持は自分が追い詰められていることを察したのか、開き直ってきた。
「あの女が私を恨むなんて、お門違いもいいところだ!いいか、警察の捜査・処理が終わっても私がこうして一般社会で生活していることが、私が無実だという何よりの証拠じゃないか。恨むんならあの運転手を恨むべきなんだよ!」
「さっきから銀持さん、あなた証拠という単語を繰り返していますね。そんなに証拠がほしいですか?」
「なんだその態度は?私が事故を起こしたという証拠があるとでもいうのか?どうせハッタリだろう、警察が徹底的に捜査しても何も出なかったんだからな。」
勝ち誇ったようにニヤリと笑う銀持。その発言が、自分自身にトドメを刺すとも知らずに。
「証拠がない、それが今回の事故の証拠なんです。」
「はぁ?何を言ってるんだお前は。」
「確認してもよろしいですか?事故を起こした車はあなたが所有していた車で、普段はあなたも運転することがあったんですよね?」
「当たり前だ、自分の車を自分で運転して何が悪い。」
「その話を聞いた時、変だなって思ったんです。事故のあと警察がハンドルの指紋を採取したとき、逮捕された運転手の指紋しかなかったそうです。おかしいと思いませんか?あなたが普段乗っているなら、あなたの指紋も1つくらい残っているはずじゃないですか。しかも事故の直前、あなたは運転手と運転を交代したとさっき説明しましたね?じゃあ交代する前の指紋はどうして消えたんですか?」
「…!」
「そう、やはりホテルの裏門のところで事故を起こしたのは本当はあなただったんですよ。その上通行人の女性を一人轢き殺してしまった…誰にだって大騒ぎになることは分かります。そして咄嗟にあなたは思いついたんです。自分に対して多額の借金がある同乗していたその運転手に、警察へ身代わり出頭させることを。運転手は借金がチャラになるならとその提案を飲むしかない。素早くハンカチなどを使い一度キレイにハンドルやシフトレバーなどの指紋を拭き、運転手に触らせたんです。だから運転手の指紋しか出なかった。」
「それにさっきあなたに被害者女性の服装を説明したときのあの反応…。きっと自分で女性を轢き殺してしまったその瞬間の光景が、あなたの頭に今でも焼き付いているんですよ。人間の脳はあまりに衝撃的なことを経験した場合、写真のようにハッキリ記憶していると言いますからね。それでもまだ同乗していただけと言い張るなら、そこまでハッキリ事故の被害者を覚えていたことと、直前まで運転していたはずの車に指紋が無かった矛盾。納得の行く説明ができますか?」
「…。」
しばらく机を挟んで睨み合う2人。口を開いたのは銀持の方だった。
「一応、お前の説明には筋が通っているようだ。それでお前、その推理を誰かに話したか?」
「いいえ。銀持さんの証言を確かめてからにしようと思っていましたから。」
「ところで、ここは個室だな?つまり今お前が消えても、ただの行方不明者ということになる…。」
銀持の目は本気だ、その眼差しから恐ろしい殺気を感じる。だがここで怯むわけにはいかない。
「では認めるんですね。本当は銀持さん、あなたが事故を起こした張本人だということを!」
「あぁそうだよ。疲れていてアクセル操作を誤り急加速して、あの女を巻き込んで殺してしまったんだよ。そして今からお前を殺すのもこの私だ!!」
銀持はそう言いながら傍にあったスマホの充電器のコードを両手に持ち立ち上がると、机越しに素早く雅樹の首に巻き付けた。
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