16章 謎の女-47
数日後 都内某所 13:00
雅樹は宣言通り、一人で銀持が務めるゲーム会社のビルの前へ来ていた。彼が今日ここへ出社しているのは事前に確認済みである。
さてとあとはアポイントだ、だが雅樹には1つの考えがあった。緊張しながら受付へと向かうと、雅樹に気づいた受付係が笑顔でご要件は何ですかと事務的に聞いてくる。
「実はオレ、先日ジャパングランドホテルで行われたゲームイベントで3位になったんです。それでここに勤めている銀持さんに、暇な時にぜひこの会社へ来るようにと誘われたんです。電話で確認していただくことは可能でしょうか?」
もちろん、そのようなことは言われていない。言わば真っ赤なウソである。受付係が少々おまちくださいと言い確認の電話をかけている間、ウソがバレないかと雅樹の心臓の心拍数はどんどん早くなっていったが、ここは冷静を装わなければなるまい。
案の定、受付係が戸惑いながら本日は来客の予定はないと伺っておりますが、と断ろうとする。しかし雅樹は直接話したいから電話を代わるようにと受付にお願いした。どうやら銀持もわざわざ何の用で訪ねてきたのか気になるようで、受付が受話器を渡してくれた。
幸運にも後ろから別の客が現れ、受付係がそちらの対応をし始めた。今なら会話を聞かれるリスクも最小限で済む。
「もしもし、銀持は私だが。キミは確か先日のゲームイベントで入賞していたね?しかし賞状も景品も現地で渡したはずだが、まだ何か用かね?」
「違いますよ銀持さん、ゲームの話しに来たのではありません。オレは例の事故の件であなたとお話がしたくて一人でここまで来たんです。あのとき逮捕された運転手、本当はあなたの身代わりで逮捕されたんじゃないですか?」
「…。」
「早くしないと受付の人の来客対応が終わりそうだなぁ、きっとあの人にもこの話を聞かれてしまうだろうなぁ。」
「よかろう。しかし会社ではまずい、今日は来客の予定がないことを社内の人間は全員周知しているからな。我が社は情報セキュリティにも厳しくて、来客一人にも申請を出して許可を得なければならず手続きが面倒くさいんだよ。場所を変えようじゃないか?」
そう言って銀持はジャパングランドホテルで15時に落ち合おうと指定してきた。あのホテルは銀持の顔が効くから部屋を用意しやすいのだろう。望むところだ!雅樹は受付へ電話を返すと踵を返し、その足でホテルへ向かった。
同日 ジャパングランドホテル 15:00
ホテルのラウンジでコーヒーを飲みながら待っていると、従業員が声をかけに来た。どうやら部屋の用意ができたらしい。
シングルルームの一室を指定され、部屋番号を伝えられた。オレは従業員にお礼を言ってコーヒー代を精算すると、緊張で張り裂けそうな胸を手で抑えながら、ゆっくりとした足取りでエレベーターへ向かった。
心の中でもう一度自分に言い聞かせる、今日のミッションは銀持があのとき自分が運転していたと自供させることだ。自分が人を殺しておいて、その罪を他人に身代わりさせて逃れるのは決して許されることではない。
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