1章 アパレル女性 絞殺事件-2
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
日之出警部が3人に資料を渡しながら、説明を始めた。
「さっきも言ったが被害者は現場アパートの201号室に一人暮らしだ。職場は渋谷にあるアパレル会社の服飾デザイナー、警察官が駆け付けた時はすでに玄関先で絞殺されていた。第一発見者で通報したのはその下の階101号室に住んでいる、滝美野あずささん。」
「下の階ってことは、足音とか聞いていた可能性もあるな。」
忠司が資料を見ながら呟く。
「いや足音ではなく悲鳴を聞いたそうだ、アパートの階段は滝美野さんの部屋とは反対の103号室の方にある。それで気になって階段を上がって201号室の玄関前に行き何度かインターホンを鳴らしたが応答はなく、ノブに手をかけてみたら鍵がかかっておらず玄関先で被害者が倒れていたそうだ。驚いて自分のスマホですぐに通報したと言っている。死亡推定時刻は通報のあった時間とほぼ同じで、滝美野さんが悲鳴を聞いて部屋を訪れたという証言と一致する。」
「聞くまでもないでしょうけど、階段や廊下で彼女は誰ともすれ違わなかったのね?」
のり子が警部に尋ねる。
「それなら事件はすぐ解決したんだがな。同じアパートならすぐ自室に逃げたか、もしくは隠れるなどして滝美野さんをやり過ごしたあとで自室に帰ったか、と見られている。」
雅樹が続ける。
「警部さん、次は容疑者達の事件当日の行動をお願いします。全員にアリバイがないと言っていましたが?」
「うん、まず発見者の滝美野あずささん25歳女性。101号室に住んでいる。事件発生時は自室で雑誌を読んでいたという、テレビや音楽は聴いておらず、そのためやよいさんの悲鳴が聞こえたようだ。仕事仲間というだけで別にプライベートで遊んだりするような仲ではなく、お互いの部屋に入ったこともないらしい。」
「次は被害者の隣に住んでいる、伊達幹久33歳男性。仕事は荷揚げ屋、まぁ俗にいう土木関係だ。たまに職場の仲間を部屋に呼んで騒いでいたみたいで、何度かやよいさんはアパートの大家にクレームを入れていたらしい。ゴミ捨て場で直接うるさいとやよいさんが言い放っている姿も目撃されている。事件発生時はヘッドホンを付けてゲームをしていたそうだ。うるさいと言われるからゲームもテレビもヘッドホンをつけるようにしているらしく、そのため悲鳴も聞いておらず警官が部屋を尋ねて事件を知ったそうだ。」
「3人目はその伊達の隣に住んでいて、2階の階段横に住んでいる梶原祐樹27歳男性。事件当日は自室で飼っている小型犬の相手をしていたそうだ。犬の世話に夢中で悲鳴は聞いていないそうで、集まったパトカーの音で何事かと思ったらしい。実は彼は以前やよいさんと交際していたが、1か月ほど前やよいさんの方から好きな人ができたと言われフラれたのだという。」
「4人目はやよいさんの職場の上司、山上武夫37歳男性だ。被害者宅から徒歩2分のところにあるマンションに住んでいる。既婚者だが、名古屋から単身赴任中だそうだ。ずでに話した通りやよいさんとは不倫関係だったことが判明している。事件当日は友人と夜から飲みに行く約束をしていたそうで、アラームをセットして自室で寝ていたと言っている。」
「ここまでが、今までの捜査で分かったところを簡潔にまとめたものだ。」
そう言うと、日之出警部はすっかりぬるくなったお茶に口をつけた。
22/9/14 読みやすいよう改行を増やしました。
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後を改行)
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