3章 小さな2人の依頼人-1
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
2022/9/26 16:00
「腹減った~、のり子さんおやつか菓子パンかないですか?」
雅樹が情けない声を上げている。30分前までとある写真家の撮影アシスタントが休んだため、ピンチヒッターしていたのだ。本来は撮影は昼頃に終わる予定だったのだが、化粧直しや撮り直しで時間がかかってしまい昼飯食べずで一度事務所に帰還してきたのだ。
「無いわよ、あるのは"お客様とアタシのおやつ"。コンビニにでも行ってらっしゃいな。」
のり子は軽くあしらう、どうやら雅樹に自分のおやつを分ける気はないらしい。
「ちぇ。忠司さんオレと一緒に飯行きましょ、飯!おやつくれないのり子さんは放っておいて、ラーメンでも食べましょうよ。こってりした豚骨ラーメンなんてどうでしょ?」
今度は忠司へ声をかける雅樹。太るから誘われたって行かないわよ、とまたもあしらうのり子。忠司はというと、いつものようにPCに向かいながら雅樹がこなしてきたアシスタント依頼の詳細を入力しつつ静かに答える。
「ラーメンでもなんでもいいが、仕事が終わってからな。看板をCLOSEにするまでは仕事だからな。」
あと30分もすればCLOSEだ、雅樹が未だ腹減った腹減った騒いでいたそんなとき。
ピンポーン、事務所のインターホンが鳴ったのでのり子が入口へ向かうとあら?と声を上げる。どうぞ、とのり子の声がした後に『お邪魔しまーす』と女の子二人の声がした。
のり子がここにお名前を書いてねと受付名簿を渡すと、そこにそれぞれ"星野ゆい""星野かな"と書いた。どうやら姉妹のようである。のり子がソファーに案内すると二人並んでお行儀よく座り、こんにちはとあいさつした。その対面に雅樹と忠司が座る。
のり子は二人の女の子の前にどうぞ、とオレンジジュースとちょっとお高めの洋菓子セットを出すと二人はまた揃ってありがとうと言った。なんとも礼儀正しい子達である。
「それで二人は一体どうしてここにきたんでしょう?」
のり子が笑顔で尋ねると、姉の方であろうゆいが答える。
「私たち、おばあちゃんと一緒に住んでてよく遊ぶんです。それでこの前おばあちゃんからなぞなぞクイズを出されたんだけど、分からなくて。何でも屋さんに聞いてみたらって友達の飛鳥ちゃんに言われたから学校帰りに寄ったんです。」
そのとき!ゆいが説明している間に、のり子の一瞬の隙をついて雅樹がパクっと依頼人のお二人さんにと出したお菓子を食べてしまった。空腹に耐えきれなかったのである。のり子は雅樹が口に放り込んだのに気づいて怒りそうになったが、そこはグッと堪えてとある提案をした。
「あら雅樹くん、このお二人のお菓子を食べるなんてやる気満々みたいね?よかったわねーゆいちゃんかなちゃん、このお兄さんがそのなぞなぞ解いてくれるわよ?」
のり子が姉妹に言うと、やったーと二人は嬉しそうに笑顔を作る。
「いやのり子さん、オレは引き受けてないっすよ。子供から依頼料取るなんてできないし。」
のり子がそんな雅樹にすかさず反論する。
「子供のお菓子を強奪しておいて何言ってるの、引き受けてあげなさいよ。依頼料は今食べたお菓子よ。いいわね?」
有無を言わさぬのり子の剣幕にやれやれ、と肩をすくめながらちゃっかりもう一つお菓子をつまむ雅樹であった。
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後に改行)
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