15章 特殊詐欺の行く末-53
同日 午後7時 事務所
田中家の3人とそのお手伝いの多見は、深々と頭を下げて帰って行った。もう外はすっかり暗くなっている。
風磨は明日の撮影をキャンセルし、4人でおばあちゃんのお墓参りに行ってみんなで謝るのだという。のり子がそうしてあげてくださいと声をかけると4人はもう一度深々とおじぎをし、風磨のマネージャーが運転する車に乗って帰って行った。
「結局、おばあさんを自殺にまで追い詰めてしまった真犯人はご遺族だったんですね。それが故意でないにせよ…これで重河と大沢の量刑が変わるってことはないですよね?」
雅樹が忠司に確認すると、忠司はパソコンに今回の顛末の打ち込みを行いながら答える。相変わらずカタカタとキーボードを入力する小気味の良い音が静かでさほど広くない事務所に響いている。
「あぁ、詐欺が起きたからこそのトラブルだしな。重河と大沢が詐欺を仕掛けなければ、田中さん達家族のトラブルだって起きなかっただろう。一応捜査2課のヤナギ警部には連絡したが、なんとか回収できる分は回収するよう取り計らってくれるそうだ。ま、全額は難しいだろうけどな。」
「でも大金を取られちゃったら怒りたくなっちゃいますよねー、ただ頭ごなしに怒ることは相手を限界まで追い詰めてしまうこともあることを忘れてはいけないのかもしれませんね。」
二人がそんな会話をしていると、のり子がお手洗いから出てきた。彼女はフチの広いサングラスをしている。
「さ、じゃあ片付けと戸締りは任せるわよ。明日は休みだから、撮り溜めしておいたドラマを一気に見なきゃね!」
じゃあね~と颯爽と去っていくのり子。
「夜なのにサングラス?のり子さん相当目が腫れたか化粧崩れちゃったんですかね?」
「知らん、俺には関係ないしな。」
「はいはい相変わらず無関心ですね~。」
そういうと雅樹は来客用テーブルの上の食器を片付け始めた。
翌早朝 ??時 ???
のり子はまた、夢を見ていた。
そこは一面青々とした草花が生い茂るどこかの草原のようで、時刻は夕暮れだろうかあたりはオレンジ色に染まっている。その真ん中にのり子は立っていた。
ふと気配を感じ後ろを振り向くと、背を丸めたおばあさんがうつむき加減に立っていた。だがのり子は直感で誰だか分かった。
「田中利志子さん、あなたの思いはちゃんと伝わりましたよ。」
そう声をかけるとおばあさんはゆっくり顔を上げほほ笑み、そして頭を下げた。
ピピーッ!ピピーッ!ピピーッ!
休みの日でも生活スタイルを崩さないため同じ時間にアラームをかけているのり子は、聞きなれた音で目を覚ました。
夢で見たおばあさんの姿を事務所共通の連絡グループへメッセージ送信し、そして思った。
(おばあさんの笑顔が見られてよかったわ。)
のり子がさっと布団から出てカーテンを開けると、今朝は雲一つない良い天気だ。目のくらむような朝の陽ざしが差し込んできて、なんだかとても嬉しくなった彼女は目を細めながら笑った。
--- True End ---
直感と夢と真相
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