15章 特殊詐欺の行く末-48
飲み物を飲みつつお手伝いさんと雅樹のやり取りを聞き続けるのり子。世間話などは早送りしつつも最後まで聞くのに約4時間かかった。
15:00 事務所
「はー、やっと聞き終わったわ。結論から言うけど確かにアタシもちょっと変だと思うところがあるんだけど…お昼食べながらでいいわよね?」
そういうとのり子は自宅で作ってきたお弁当をキッチンの電子レンジで温めてから、ミネラルウォーターのペットボトルと一緒に持ってきた。ソファに座り食事の支度をするのり子の後ろから雅樹が覗き込むと、どうやらオムライス弁当のようである。女性らしいピンクのお弁当箱の半分ほどをオムライスが占め、隙間を埋めるようにミートボール・ミニトマト・ブロッコリーが入っていた。
雅樹が思わず美味そうと漏らすと、笑顔であげないわよとけん制するのり子。
「で、なんなんだキミらの言う"違和感"って。」
のり子の食事が終わるのを待てないのか、忠司が問う。今のところ何の違和感も感じていないのは彼だけである。
弁当を半分ほど食べ進めてから一度箸を置いたのり子が言うには、普通に考えると今回の事件はこのように見えるという。
①重河が大沢に指示し、依頼人田中の動きを封じるためオーディション当日におばあさんへ詐欺を実行させる。
②おばあさんは田中に黙って(わざとにしろ)その詐欺に引っかかったことにより重河の目論見は失敗。
③田中のオーディションが終了後おばあさんは大沢の写真を持って警察へ相談、詐欺容疑で大沢の捜査開始。
④その後田中家が一度実家に集合、その頃大沢も逮捕される。
⑤事情聴取などが終わると依頼人田中の両親がまたそれぞれ遠方に帰り、田中も仕事へ。そしてお手伝いさんが買い物へ出かけた隙におばあさんは浴室で自殺。
⑥お手伝いさんが警備会社へ連絡し敷地の警報システムを解除してから、お風呂場でおばあさんの遺体を発見し通報。
⑦大沢の詐欺容疑とおばあさんの自殺は強い因果関係が認められて大沢の罪は重くなる。
⑧保釈金を用意できなくなった重河に愛想をつかし、大沢は司法取引へ。事務所メンバーの罠と相まって重河が無事捕まる。
⑨依頼人田中、なぜか浮かない顔で去っていく。
「まぁ大まかな流れはこうなるな、確かに『大沢に詐欺を依頼した重河が捕まった』はずなのに田中さんが嬉しくなさそうなのは疑問が残るな。あの男が元凶だったわけだし。」
ほとんど弁当を食べ終わる頃、のり子が口を開く。
「おかしいのよ、今回の事件。お手伝いさんの証言を聞いて、アタシの勘がピーンと来たわ。明らかに変でしょ。」
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。