15章 特殊詐欺の行く末-45
翌日メンバーたちは各々事情聴取に向かわなくてはならなかったため、事務所は閉めた。
数日後 事務所 午前11時
「この度はありがとうございました。」
そう言って三人に向かって頭を下げる依頼人・田中。いつもの応接スペースで、田中と事務所メンバーはテーブルを挟みお互いソファに座っていた。
「田中さん、もしかしてあなた最初からちょっと重河さんのこと疑ってたんじゃないですか?おばあさんの自殺を簡単に受け入れられなかったのも、その考えを捨てきれなかったからじゃ…。」
雅樹が言うも、その言葉を遮るようにバッグから一枚の封筒を忠司に渡す田中。
「こちら謝礼です、ご確認ください。」
そこには田中が所属する事務所名義の小切手が入っており、3人はその金額に驚いた。なんと最初に提示した金額の約5倍、一般的な乗用車ならフルオプションかつ新車で3台ほど買ってもまだいくらか手元に残る額である。
「田中さん、あなたの所属事務所名義の小切手でこの金額ということは…。」
「事務所に全てを報告したら、上の人からそれを黙って渡すように言われました。」
忠司の言葉に明言を避けた田中だが、『今回の件は他言無用』という口止め料であることは明白であった。特に人気絶頂のアイドルが実は舞台裏ではいがみ合っていて、さらに片方が元詐欺グループ幹部だなどというスキャンダルはアイドル事務所としてあってはならないニュースなのだろう。のり子が会話を引き継いだ。
「重河さんのことはどうなるのかしら?ニュースにはなっていないようだけど。」
「すべてを発表すると彼の立場的にも世間が大混乱するでしょうから、発表は避けるそうです。警察としても一度『詐欺グループ黒ネズミは壊滅した』と発表したのに実は幹部がまだ活動していたなんて、マスコミに嗅ぎまわられたくないんじゃないでしょうか?重河は急病により突然の無期限活動停止ということで発表されるようです。」
「じゃあ、今後は田中さんソロ活動になるのね?例の映画も。」
「えぇ。脚本家が僕と重河、どっちがオーディションで生き残っても良いように執筆してくださっていたみたいで特に支障はないと。それより今までの仕事はすべて重河アリのコンビでやってきましたから、そっちの方が心配ですね。」
「最初は戸惑うでしょうけど、3か月もすれば慣れますわ。」
のり子が励ますように言うと、田中はそうですねと答え用意されたお茶をグイッと一気飲みした。
「これでおばあさんの無念も晴れて、一件落着ですね!」
「えぇ、まぁ。」
雅樹が明るく言うが、一瞬田中の表情が曇る。忠司は受け取った小切手を金庫にしまうべくソファからすでに離れていたが、のり子と雅樹は見逃さなかった。
改めて田中が深々と礼をして去っていったが、のり子と雅樹はさきほどの違和感がぬぐい切れなかった。本当にこれで全て明らかになったんだろうか?
今は元詐欺グループ幹部逮捕に貢献できたことを喜んでもいいはずなのに、二人の心には何かが引っかかったままだった。
--- 謎を残す決着 ---
(ノーマル エンド)
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