15章 特殊詐欺の行く末-43
忠司が言い終わると、姿勢をそのままに目つきが明らかに鋭くなった重河。
「ほう。その根拠は?」
「今までに出た情報を整理すると自然とこうなるんです。表向き仲良しの相棒すら自宅に入れない、あなたが大沢に指示した手口は元詐欺グループ黒ネズミのものとそっくり、そして捕まっていない幹部は詐欺対象者の情報を黒ネズミに流していた人物であること。つまり重河さんが詐欺ターゲットのリストを作りそして所持していた元幹部その人であればすべての辻褄が合います。これは俺の推測ですが、デジタル化の時代とは言えスマートフォンやパソコンに保存していたのではウィルスなどなんらかの理由でデータが流出する恐れもある。用心深いあなたのことだ、時代の流れに逆らってあえてアナログな手書きなどでリストを作っているのではないですか?」
事務所がシーンと静かになる。窓の外では人々がいつも通りの生活を送っているというのに、その喧噪すら誰の耳にも届かない。
突然、重河が姿勢を崩しソファーの背もたれに全体重を預けるように仰向けになって大笑いしだした。
「ハハハハハッ、八重島さんだっけ?かなり頭良いんだなアンタ、どうだい俺と組まないか?」
その問いに忠司は立ったまま黙って首を振る。
「ふん…さっき警察とパイプがあるって言っていたがもしかして元警察官か?」
「えぇ、俺は。」
「それでとっくに解散した黒ネズミにやたら詳しいのか、まいったね。そうさ、自分があの一斉摘発のとき唯一逃げ延びた幹部さ。まぁリストは手書きじゃないけどな、そんな面倒くせぇことはしない。アナログ式なことは認めるがな。」
意外とあっさり認めた重河の態度に驚く雅樹とのり子、しかし忠司だけは驚く様子も見せず冷静に追及を続ける。
「ではご自身が詐欺グループ黒ネズミの元幹部だった事実も認めるんですね?」
「あぁ。…だからどうした?」
ニヤリと不敵に笑う重河と、黙っている忠司。
「あんたは"元"警察だろ?つまり今のあんたに目の前の元詐欺グループ幹部を逮捕する権利は何もない。ボイスレコーダーもスマートフォンもパソコンも、さっき目の前ですべて電源を切らせたから録音や録画もできていない。さっきそこの女が正々堂々と勝負しろと言っていたが、まさに正々堂々ボイスレコーダーを最初に出したのが間違いだったな。」
そう、重河がずっと余裕の態度を取っていた最大の要因はここだった。彼の言う通りただの元警察にはもはや何の効力もないのだ。
忠司が黙ってパソコンの方に歩いて行く。その後ろ姿を見ながらあと一歩なのに…と顔を見合わせるのり子と雅樹。
対照的に重河は上機嫌だ。
「残念だったな、それにしてもあんた達の推理は大したもんだよ。ほとんど当たってるんだからな。ただ映画やドラマのように探偵ごっこで犯人を追い詰める…とはいかなかったみたいだな。そろそろ帰らせてもらうぜ。」
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