15章 特殊詐欺の行く末-41
「大沢への詐欺の教唆を認めるんですね?」
「あぁ、物的証拠は何もないけどな。スマートフォンは当然通信関係に綿密な細工を施していたから大沢の機体から追うことは不可能、物理的にももうこの世に存在しない。取り調べを受けてもしらばっくれていればこっちの勝ちさ。」
依然として余裕の態度を崩さないの重河にのり子が質問を投げかける。
「どうして?二人きりのオーディションで正面切って勝負すればよかったじゃない。嫌いな相手だからこそ正々堂々と決着を付けようと思わないの?」
「あのな、人間ってのはおもしろいんだよ。自分自身のことはどうなってもいい、だが大切な人は守りたい…誰しもそういう感情があるんだ。田中の動きを封じるために、今までの経験からしてアイツを狙うよりもアイツの身内を狙う方が確実だと踏んだだけだ。あのばあさんが思ったより手ごわくて兄ちゃんが言った通りこっちの計算は狂いまくったわけだが、最終的に捕まらなきゃ結果オーライってとこかね。ソロオーディションにも勝ったし、この世は最終的に賢い人間が勝つようになってるんだよ!」
悪びれもなくそう言い放つ重河。
「あなたは賢いんじゃないわ、卑怯なだけよ。他人の大切な誰かを騙してそのお金で身内を肥やして、あまつさえ命まで奪って…今にバチが当たるわよ。」
怒りに震えるのり子のその言葉に、またもアーハッハッハッと大声で笑う重河。
「そのバチっていつ当たるのかね?今までもこれからも、こっちはバチとは無縁なんだよ!今頃大沢が司法取引で情報をバラしていてもおかしくない頃なのに、警察だって手出しをしてこないじゃないか。証拠がないんだよ、証拠が!!」
今まで黙っていた雅樹が言う。
「忠司さん、コイツどうしようもないですね。なんとかできないんですか!目の前にいるのに。」
「落ち着け二人とも、気持ちは分かるが手を出したら俺達の負けだ。」
両脇の二人を制して忠司が勝負に出た。
「バチが当たるか当たらないか、今から勝負しましょう。俺があなたを捕まえるための決定的な証拠の場所を推理しますから、それが合っているか違っているかを答えてください。これが最終答弁です、お互いウソはなしでいきましょう。もし俺の推理が間違っていれば警察にあなたは無実だと訴える証人になりましょう、たとえウソの証言をしたとして偽証罪で罰を問われることになっても。」
「兄ちゃん良い度胸してるねぇ。おもしろい、言ってみな。」
ま、どうせ当たってたところで探すのは無理だし録音機器も動いてないけどな。心の中で余裕たっぷりの重河であった。