15章 特殊詐欺の行く末-37
その言葉を鵜呑みにするほど事務所の3人は愚かではない、重河が潔白ならボイスレコーダーやスマートフォンの電源を切らせる必要はない。何か証拠に繋がる自身の発言を、ふとした拍子にでも録音されることを警戒している証拠だ。
だがこれはチャンスでもある。今目の前の録音機器がないことで重河の警戒心がある程度解かれるはず。問題は録音できないことで彼の証言を証明する方法がなくなってしまうことだが、なんとか物証に繋げられれば…。のり子と雅樹がそう考えている間に、重河は忠司にパソコンの電源も切るように指示、忠司が重河の方に画面を向けてシャットダウンする瞬間を見せるとようやく納得したようだ。
「これでよろしいでしょうか?」
忠司が問うと重河は不敵に笑う。
「ふん、まぁね。自分は用心深い性質でね、ボイスレコーダーを目の前に置いたときから君たちの目的は察したよ。この前来た時みたいに録音してよろしいですか?と聞く気だったんだろう?」
「重河さん、お言葉ですけど録音可能な機器の電源をOFFにさせた時点で私が犯人ですと自白しているようなものよ。潔く観念なさったら?」
のり子の言葉に重河は不敵に笑う。
「もう一度言うが、何のことを言っているのか分からないな。それに仮にだ、自分がその詐欺犯と繋がっていたとして証拠があるのか?無いんだろ、じゃなきゃ回りくどい質問なんてせずさっさと警察に突き出しているハズだ。」
ぐうの音も出ない事務所メンバー、どうやらこの重河という男はかなり頭が回るようである。3人のリアクションに図星だなと満足そうに笑う重河。
「もう八重島さん、なんでボイスレコーダー全員分出しちゃうんですか!1個くらい隠しておけばいいのに!」
「無駄だ、彼は以前この事務所に来たときにボイスレコーダーの存在を認識している。それに俺達は3人で行動しているんだ、ボイスレコーダーだって人数分なきゃおかしい。パソコンの電源まで警戒するような男ならそんなことに気づかないはずはない。」
雅樹の抗議に冷静に対応する忠司、そんな二人の様子を見ながら重河は言う。
「何でも屋風情の探偵ごっこに付き合ってる暇はないんでね、帰らせてもらうよ。」
「ほーお、随分と余裕綽々のご様子ですが良いんですかねぇ?」
重河がそう言うと同時にかぶせ気味に大声で遮る忠司。
「なんだよ?」
「あなたを呼んだのはお伝えしたいことがあったからで、それは犯人の大沢が司法取引に応じたということです。つまりあなたはこれから警察の監視下に置かれることになる。もちろん、『あなたが大沢と繋がっていなければ関係のないこと』ですがね。」
しかし明らかに同様している様子の重河を見れば、無関係でないことは誰の目にも一目瞭然であった。
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