15章 特殊詐欺の行く末-36
同日 午後13時 事務所
昼食を食べ終えて思い思いに過ごした3人、時間が13時になると同時に忠司がどこかへ電話をかけはじめた。
「はい、それで第二課の刑事さんに…そちらの手続きはもう進めていただいてますか?」
お湯が沸くのを待っているのり子は、キッチン入口から電話をする忠司の背後が見える。だが気になるのはその姿勢、ひどく前のめりの態勢である。それが気になって雅樹に声をかけるのり子。
「ねぇ雅樹くん、八重島さんなんであんな体勢で電話してるの?ただでさえ身長が高いんだから背中や腰が痛くなりそうだけど。」
ソファーに寝転がる雅樹は面倒くさそうに状態を起こすと、すぐ理解した。忠司のよく使うパソコンとこのソファー席はかなり近く、ソファーの背もたれから身を乗り出せばパソコンのキーボードに手が届く距離。この配置は依頼人の話を聞きながらパソコンに打ち込みをしたい忠司たっての希望でわざとこうしている。
「スマートフォンを充電しながら使っているからですよ。ほら充電ケーブルが短いから、きっと背を丸めないと本体が耳に届かないんでしょうね。」
ジェスチャー交じりに雅樹が説明すると、あぁ…と納得しキッチンに引っ込むのり子。
「では伝えた通りの手はずで…よろしくお願いします。」
同日 15時 事務所
先日忠司が田中に重河のスケジュールを確認した際にアポを取っており、その約束通り重河が現れた。重河に来所者名簿に記帳してもらっている間にのり子が外の札を素早くCLOSEに変え、雅樹は四人分の飲み物を用意した。
彼を来客用のソファに案内しながら雅樹が言う。
「はじめまして重河さん、来年のソロ主演オーディションおめでとうございます。オレ初めて見るけど実物はやっぱり画面越しよりカッコいいですねー!」
飲み物を置きながら褒める雅樹にあくまで営業スマイルで対応する重河、職業柄こういったお世辞は言われ慣れているのだろう。
「ありがとう。ところでなんですか、重要な話って。今日は18時からフリーテレビの特番の撮影が入っていますから、手短にお願いします。」
その言葉に忠司がパソコン前から3人分のボイスレコーダーを持って来客用ソファの前に座り、それをテーブルの上に広げる。のり子と雅樹も彼の両脇にそれぞれ着席すると忠司が言い放った。
「では単刀直入に言います、あなたが今回の事件で大沢に詐欺の指示をした張本人であり、詐欺グループ黒ネズミの元幹部ですね?」
忠司の言葉を聞くと重河は黙って机の上のボイスレコーダーを調べる。そのすべてに電源が入っていないことを確認しているようだ。忠司の質問には答えず続けて3人のスマートフォンを見せるように要求する重河、そしてそれに従って3台のスマートフォンが机に出された。
そのすべての電源を切らせると、重河は口を開いた。
「今回の事件って田中のおばあさんが自殺した件ですか?詐欺の指示、黒ネズミ?自分には何のことだかさっぱりですね。」
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