15章 特殊詐欺の行く末-34
翌日 事務所
早速出勤してきたのり子は面会室での一部始終を二人に話して聞かせる。両者きちんと録音データは聞いてくれていたようだが、大沢の表情などは録音データでは分からないしそもそも録音していない薄井弁護士や警部とのやり取りなどの情報共有のためだった。
「女好きな大沢に対し女性である川島田に向かってもらう、単純だが最も効果的な作戦だったな。」
思ったより収穫が多かったのか、日課であるネットニュースの確認をしながらつぶやく忠司。雅樹はいつものソファの方にドカッと座る。
「はぁー、長々しゃべったら出勤早々ちょっとくたびれたわね。で、肝心の重河を追い詰める策は考えてくれたのかしら?」
キッチンで三人分の飲み物を準備するのり子、一仕事終えた彼女はちょっと機嫌が良いらしい。内心ラッキーと思いながら知らぬふりをして天井を見上げながら言う雅樹。
「忠司さんは妙案があるって言ってたんですけど、のり子さんが来てから説明するって言われて結局オレも聞いてないんですよ。」
「あら、じゃあキーパーソンのアタシが出社したことだし八重島さんの次の作戦とやらを聞かせてもらいましょうか?」
忠司のデスクにコーヒーを置き、続き雅樹と自分の分をソファ前のテーブルに置いてのり子もそのまま着席する。
「うん。君たちなら、今の状態からどうやって重河を追い詰める?」
「え…うーんオレなら、とりあえず大沢が司法取引の際に出す情報が出るのを待ちますかね?実行犯の大沢が口を割るのが一番確実な気はします。」
「そうね、アタシも大沢の自供次第で次の行動方針を決めるのが良いと思うわよ。」
忠司の問いに、雅樹とのり子が返答する。だが問いかけた本人は首を振る。
「残念ながら、それでは重河を追い詰めることはできない。大沢が情報提供したところで重河がしらばっくれてしまえばそれまでだ、何度も言うが追い詰めるための証拠がない。」
「でも大沢がこれから自供するならその証言が武器になるのでは?」
雅樹の反論に忠司はだまたも首を振る。
「それが問題なんだ、大沢が何を言おうが『大沢の話が真実だ』という証拠がない。アイツは俺に罪をなすりつけるために嘘をついている、などと重河が逃げればそれまでさ。現に大沢は前科者、ヤツの証言だけでは発言に対する信ぴょう性を疑われるのは当然だ。」
たしかに…のり子と雅樹はその説明に一応は納得。するわけがない。
「もう、理屈は分かったからもったいぶらないで教えてよ!」
「そうだそうだ!」
二人のヤジにフッと笑って答える忠司。
「重河が捕まるように罠を仕掛けるんだよ、俺達で。そしてこれは俺達だからこそできることさ。」
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