15章 特殊詐欺の行く末-33
のり子は帰りのタクシーの中で電話をかけていた、帰りがけに警部に捕まってしまったことで窓の外の景色はすっかり暗くなっている。
「アタシ達が受け答えしたことは記憶している限り文字起こしして送信するから、雅樹くんと二人で確認しておいて?文字数が多いから、入力が終わるまでもう少しかかると思うけど。」
彼女は器用に電話をしながら文字入力を続ける、その電話の向こうから聞こえるのは忠司の声である。
「いやゆっくりでいいよ、むしろ抜けがないよう正確な資料のほうが嬉しい。とにかくお疲れ様…重河の名前は出したのか?」
「えぇ打ち合わせ通りに。名前を出したら顔が緊張したから、アタシ達の推測は大方合っていると見て良さそうね。ただ帰りがけに警部さんに捕まっちゃって、なんで重河が疑わしいのかの説明を詳しく教えろと言われたおかげでこの時間ってワケ。」
電話の向こうからまた声が聞こえる。
「仕方ないさ、重河のことを一から説明したら時間がかかってしまうし証拠もないからな。むしろ警部に直接大沢の反応を見せたことで、警察側も重河へ対する疑いを深めることになるだろう…ところで司法取引についてはどうだった?」
「大沢は考えるとだけ言って去っていったわ。でも拒否はしなかったから、自供するのも時間の問題だと思うわ。警部によると今までは断固拒否!みたいな感じだったらしいからね。雇い主に裏切られてるわよって焚きつけたのが効いたかしらね、まぁそれを考えついたのはアタシじゃないんだけど。」
とにかくお疲れ様、という忠司に対しのり子は続ける。
「別にいいわよ、面会行くって名乗り出たのはアタシだもの。その代わり二人には宿題よ、どうやって重河を追い詰める証拠を集めるかの作戦を立てておいてほしいわ。アタシはこのまま家に直帰する気マンマンなんだから。」
「それについては俺に考えがある、重河が詐欺の指示役なら絶対に握っている"ある物"をやつは持ってるはずだ。明日事務所に出勤してきたら話すよ。」
「あら楽しみね、それじゃお疲れ様。」
のり子は電話を切ると、一人考え始めた。
(証拠となる物ってなにかしら?…普通に考えたら指示出し用のスマートフォンとか?でもそれなら普段使いとは別の1台をキャリアと契約せずに用意しておいて、やり取りなどはいくらでもごまかす手段はあるし。)
そこまで考えたが、どうせ明日聞けるしいいかと開き直るのり子であった。
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