15章 特殊詐欺の行く末-31
「警部さん、大沢さんが司法取引に応じた場合はどのくらい減刑が考慮されるんでしたっけ?」
わざと話を警部に振るのり子。もちろんこれは作戦の内で彼女自身は弁護士でないためもちろん弁護士バッジを身に着けていない、そんな彼女が司法取引について語っても言葉に説得力がない。重要な説明は弁護士か警察関係者に任せるようにと忠司に言いつけられて来たのだ。
「今回の詐欺事件もだが、手口から見て黒ネズミの関係者がまだ逃れている可能性は非常に高いと我々警察も見ている。今までの罪滅ぼしをさせる、および今後も起こるだろう事件を未然に防ぐメリットも踏まえて今度こそ完全に全滅させることができれば…最大で実刑が半減されるのも十分ありえるだろう。」
「実刑半減かァ…。仮に6年だとしたら3年に縮まるわけだろ、なかなかデカいなァ。」
警部の言葉に大沢が珍しく耳を傾けている、専門的な解説を警部に任せたのは正解だ。
「半減ってなかなか無いわよ、まぁもちろん大沢さんからの情報で逃げ延びた幹部を捕まえることができれば、ですけどね。」
「その辺は散々聞いたゼ。ただ一応、依頼人との約束を守る義理があるしなァ。」
ここでのり子が勝負に出る。
「アタシ達の調査でおぼろげに掴んだことなんだけど…。あなたの協力者ってもしかして、大人気アイドルの重河じゃないの?」
大沢は黙っているが、しかし彼の表情に一瞬ピリッと緊張が走ったのをのり子は見逃さなかった。
「あの男、あなたの保釈金を払う気ないわよ?」
「…。」
「テレビでやってからあなたも見たかもしれないけど、彼の家は総リフォーム&妹は音大通い。もし重河がそれらの金銭面をほぼ一人でまかなっているなら…あなたの保釈金を払う余裕なんかないわよね?」
「何が言いたいんだ?姉ちゃんよォ。」
大沢が文字通りのり子を睨みつける。だがこんなことで怯むのり子ではない。
「分からない?元々は『大沢さんが詐欺を実行し重河がそれを逃がす約束』だったのよね?でも一度お使いを寄こしたあとはなんの連絡もなし…多分彼はまとまった金を用意できるまで、義理堅いあなたが口を閉じていることに賭けているんでしょうけど。それだっていつ保釈金を払ってくれるか分からないわよ?実刑受けた方が早かったりしてね。」
「…。」
「このまま何もしないと、あなただけが実刑まるまる食らうことになるわ。良いの?大沢さんにだけ危険な実行役をやらせて重河はノーリスクなんて、アタシならそんな不公平許せないわ。そんなの重河の一方的な裏切り行為じゃない。」
少し考えさせてくれ、そういうと重河は面会室を出て行ってしまった。 手ごたえはあった、彼が以前裏切り行為は大嫌いと言っていたのをうまく利用したのである。
実はこの交渉については先日打ち合わせしたあと雅樹が大筋の台本を考えていた。それをのり子のスマートフォンに転送してもらい、彼女はここに来るまでの数日で必死に頭に叩き込んだのだ。
おかげできわめて自然な形で交渉ができた、のり子は心の中で二人に感謝した。
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