15章 特殊詐欺の行く末-28
一通り家の中を紹介した画面の中の一行は、リビングで近況トークをし始めた。
重河の妹は収入面の関係から一度は音楽家の道を諦めようと思っていたようだが、兄が仕送りしくれるようになって夢の道を再び歩み始めることができたという。両親も息子はアイドル業で忙しいはずなのに私たちのことを常に気遣ってくれて…など、テレビの映像編集技術も相まってスタジオの芸能人には涙を流す者もいた。
案の定画面の中でその映像を見ていた芸能人たちは口々に、良いお兄ちゃんですねなどと重河を褒めるコメント一色であった。そのあとは違うコーナーへ進んだため忠司が動画を閉停止させた。
確かに何も事情を知らない者がこの映像を見たら、人気アイドルとなった長男が実家の家族にたくさんの仕送りをして生活を助けている素敵で感動的なストーリーにしか見えないだろう。だが田中や重河から裏事情を聞かされている3人は全く違う反応だった。
「おかしすぎるわよね…。」
いつものソファーに向かい深く腰掛けたのり子が一言放つと、そばの壁に立ったまま背を寄りかけながらさっきまで動画を見ていた雅樹が続ける。
「のり子さんが言いたいこと、たぶんオレと一緒でしょうね。恐らく忠司さんも。」
忠司がパソコン前の椅子に無言で着席するのと同時に、雅樹はのり子と同じソファに腰掛け話を続ける。
「田中さんが言うには『他のアイドルよりは贅沢できる程度』の収入らしいじゃないですか。いくら売れっ子アイドルといっても仕送りできる額には限りがあるはず。それなのに音大進学・高額な楽器や絵画の購入・果ては自宅の全面リフォームまで…。オレには話ができすぎているようにしか見えません。」
「俺も同感だ、いくらなんでも金回りが良すぎる。外見は普通の家と車一台所有のありふれた家庭に見えたが、家の中の映像を見た後だと印象が一変するな。」
のり子はそれを聞きながらサッとキッチンに立つとミネラルウォーターを持ってきた。同じ位置に座り直すと、水を一口飲みハッキリ告げる。
「アタシの勘だけど、重河さんってただのアイドルじゃなさそうよね。」
いつもはのり子の"勘発言"を小ばかにする雅樹も、この時ばかりは黙ってうなづいた。
「さてここからが次のステップだな。重河の不自然なほどの金回りの良さはなぜなのか、そしてそれは今回の事件と関係あるのか…。」
忠司ものり子と同じようにミネラルウォーターを取りにキッチンへ向かった。
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。