15章 特殊詐欺の行く末-26
録音を聞き終えた忠司が2人の会話に参戦する。
「常に一緒に行動している田中さんの勘が正しければ、大沢と重河が繋がっていると見て間違いはないだろう。だが問題は重河が大沢と繋がっているという証拠だ。大沢の面会室での様子を聞く限り、重河が保釈金を払わなければ司法取引の際に全てが明らかになるだろう。だが裏を返せば重河の保釈金の準備が間に合ってしまえばすべては闇の中だ。重河だってバカじゃないだろうからそのくらい分かっているはず、彼が保釈金を準備する前になんとか手を打たないと。」
「だけど大沢はまだ口を割りそうにないし、お手伝いさんからはほとんど聞いてきたし…。田中さんだって大人気アイドルですから頻繁に呼ぶわけいかないし。のり子さんはどう思います?」
「そうねぇ…、とりあえず相方の重河さんについて調べてみるのはどうかしら?もし何も出なかったら、彼は潔白だという証明にもなるし無駄足にはならないと思うのよ。」
キッチンの方へ向かいながらのり子が声を上げる。
「ただ田中さんは依頼人だからともかく、重河さんは現状あくまで関係者というポジションだからあまり踏み込んだことはできないな。勘のイイ人間ならそれだけで自分は疑われていると気づいて警戒されてしまうだろうし。」
そんなとき、キッチンから戻ってきたのり子は雅樹が自分のスマホで何やら動画を見ていることに気づいた。
「ちょっと、雅樹くんも真面目に考えなさいよ。仕事なのよ?」
「何言ってるんですか!オレはマジメもマジメ、大真面目に仕事してますよ。田中さんがテレビの仕事で重河さんの実家へ行ったと言ってたじゃないですか、その時の映像を見てみようと思って。」
「動画配信サイトが豊富な現代ならではの調査方法だな。」
そう言いながら忠司とのり子が雅樹のスマホを覗きに来る。が、3人が1台のスマホで動画を見るのは窮屈すぎる。忠司のパソコンで映すことにした。
映し出されたのはどこかの民家の前でTANA・SIGEの二人が番組の冒頭あいさつをしている。田中の証言通り、一般的な2階のある一戸建てだ。入り口門の横には小さなガレージがあり、一般的な5人乗りの乗用車。証言通り、アイドルの実家だからといって特別羽振りが良いというわけでもないらしい。
「さすがにパソコンの方が画面が大きくて見やすいですね~、でも実家の周りへは徹底的にモザイクが掛かっていてこれだけじゃ住所は特定できませんね。」
「そりゃ大人気アイドルの実家だからな、ファンやマスコミが押しかけないよう事務所側も徹底しているんだろう。」
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