15章 特殊詐欺の行く末-25
翌日 事務所。
早速またお互いのボイスレコーダーのデータを交換する3人。のり子はお手伝いさんの録音データは早々に飽きたのに、田中の録音データは大人しく最後まで聞いていた。
そして先に聞き終えたのものり子の方である、今回は大沢との面会で録音したデータの方が長いのだ。
「そうねー。確かに重河が大沢に指示し、田中さんのおばあさんに詐欺を仕掛けさせたと考えれば綺麗につながるわね。」
のり子が話しかけるので雅樹が話し相手をする。実はせっかちな雅樹は1.5倍速で録音データを再生し、早送りも駆使して忠司よりうんと早く聞き終えていたのだ。
「少なくともオレと忠司さんはそう考えています、恐らく詐欺の成否は重河にとってはどうでもよかったのでしょう。田中さんのオーディション到着を妨害するのが真の目的だった…田中さんがオーディション会場に現れた時とても驚いたようですから。」
「おばあさんが田中さんに相談して、取り乱したり一緒に警察に行ったりするのを狙ったのかしらね。でもお手伝いさんからのメールで知ったとなると、おばあさんはお孫さんである田中さんには相談しなかった。…無理もないわ、孫の大事なオーディションですものね。」
「でもオレここでまた一つ引っかかってるんですよね。」
「何よ?」
少し忠司の方に目をやる雅樹。しかし彼はまじめに早送りや倍速になどせず、じっと録音データの確認をしているようだ。
「お手伝いさんの話しだと、おばあさんはけっこう頭の良い女性だったらしいじゃないですか。依頼人自身も、詐欺に引っかかるような人じゃないと言っていました。じゃあなぜ、すんなりお金を払ってしまったんでしょうか?」
少し黙って考え、言葉を返すのり子。
「それは…人間パニックになると正常な判断ができなくなるっていうし。」
「うーん。でも頭の良い女性だったら、まず警察に一報入れそうなものですけどね。特にあのおばあさん、小切手を受け取りに来た大沢をバッチリスマホで撮影して警察に逮捕させるくらいには頭がキレるようですから。どうしてすんなり詐欺に引っかかってしまったのか、その点がどうしても気になるんです。お手伝いさんの話しではお金を払った後にはなりますが警察に行っていましたから、恐らく詐欺だろうという自覚はあって大沢の写真を撮ったりしてるハズなんですよね。」
「まさに『死人に口なし』って感じよね、おばあさんから直接その辺りのお話しを聞きたいところね。」
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