15章 特殊詐欺の行く末-24
雅樹の言葉に沈黙する忠司と田中。
「考えたくはないが、今の田中さんの話が本当ならその可能性が濃厚だ。」
「心外だなぁ。僕が嘘をつく理由ありますか?」
ふてくされたように笑いながら、田中は続ける。
「残念ながら芸能界や舞台界隈ではよくある話なんですよね、これが。僕もテレビやラジオをやらせていただいている立場ですから、当然その裏側もたくさん見てきましたよ。例えば女性グラビアアイドルの撮影会なんて、ライバルを蹴落とすために相手がちょっとトイレに行っている間に替えの衣装をハサミでズタズタに引き裂いてしまうとか。」
田中の話を聞きながら、うわぁ…とドン引きする雅樹。一方忠司は無表情である。
「オレよくテレビやスマホの動画を見るんですけど、たまに芸能人がテレビでそういう暴露話をしてるじゃないですか?本当なのかな~って疑ってたんですよね。」
「むしろあんな暴露話なんて一部も一部ですよ。僕が見聞きしただけでも…やめましょう。全部話そうとしたらいくら時間があっても足りない。」
「話を戻しましょう、とにかく重河さんに疑惑が生じた以上俺たちは彼の調査をしなければならない。大沢が協力者の存在を匂わせている以上、田中さんの話にもかなりの信ぴょう性がありますし。」
「ありがとうございます…。ただどうやって重河を崩すつもりですか?アイツは今回の事件とも僕のおばあちゃんとも直接的な関わりがないんですよ?」
「たしかに、知らぬ存ぜぬを貫かれたらそこまでだ。むしろ変な疑いをふっかけて俺たちの方が名誉棄損で訴えられる危険がある。」
ここでまた一つ雅樹が閃いたことを田中に尋ねてみる。
「あのー、重河さんってお金持ちなんですか?」
「ん?なぜそんなことを?」
「ここからはあくまでオレの仮定の話です。もし大沢の協力者が本当にいて、その人物が大沢の保釈金を肩代わりしようとしているなら…。ある程度のお金持ちじゃなきゃ払えませんよね?前にのり子さんが録音してきた面会記録を聞いたとき、随分余裕な態度だったのが気になって。」
「まぁ僕たちの人気はお二人も知っての通り、他のアイドル達よりは稼がせていただいてますよ。ただ事務所の取り分などがほとんどですから、他の人よりちょっと贅沢できるくらいですね。コンビ出演ばかりなので懐事情は重河も僕と同じかと。」
「では、彼のご実家は?」
「重河の実家は一般家庭ですよ、確か父親が公立高校の教師で母親は看護師。テレビの企画で一度インタビューに行きましたから覚えています、車もよくある5人乗りの乗用車だけ。ただけっこう多めの額の仕送りや贈り物をしているみたいでお母さんは嬉しそうにしていましたけどね。」
「人気アイドルだしそりゃ多少の稼ぎはあるか…。」
ここで田中は次の撮影があると帰ってしまった。翌日のり子を含めまた打ち合わせをしようということになって忠司と雅樹も帰宅した。
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