15章 特殊詐欺の行く末-23
え!と声をあげ驚く雅樹と対照的に、忠司は静かに田中を見つめていた。彼は依頼人がこう言いだすのを予想していたのだろう、顔色一つ変えなかった。
雅樹が驚き声のボリュームのまま質問する。
「田中さんが重河さんを疑う理由、聞かせてほしいです。なぜですか!仲が良くないとはいえずっと一緒にやってきた相方なのに。」
ふぅ、ともう一度大きく深呼吸をした田中。そして一息に話始めた。
「来年撮影する映画のオーディション、僕と重河がコンビ対決したのはご存じですよね?あの日なんです、僕のおばあちゃんが詐欺にあったのは。オーディション当日の僕はそんなこととはつゆ知らずタクシーでオーディション会場の某スタジオの控室へ、違和感を感じたのはそのときです。
重河が、まるで幽霊でも見るような驚きの顔で僕を見たのです。オーディションは僕と重河の2人で戦うのは前から決まっていたことだから、僕が控室に現れるのは当たり前のことなのに。…それなのにまるで重河は『なぜお前がここにいるんだ?』と言わんばかりの顔をしていました。
今になって思えば、という話ですし何も確証はありません。ただの僕の勘なだけですが…。」
忠司がメモを取りつつ思考を巡らせる。こういう時に話しかけると怒られるので、雅樹は追加の飲み物を用意しにそっとキッチンに立った。しばらくしてから忠司が聞き返す。
「その話が本当なら、確かにおかしいな。同じアイドルコンビの相方が同じ控室に来ることはなんら不思議なことではないのに、異常なほどの驚きよう…。言われてみれば重河さん、結果発表前から妙に自信満々だったような。田中さん、オーディションの時の話をもう少し詳しく。」
「そりゃ余裕の態度にもなりますよね。オーディションは計3時間に渡って行われたんですが、中盤頃にお手伝いの多見さんからメールが入ったんです。利志子さまの様子がおかしいですって。最初は体調かと思いましたが、どうやらそうではなさそうだと。まぁ短い休憩の間だったのでそのくらいしかやり取りできなかったんですが、おばあちゃんが気になってしまった僕は後半戦の演技や表現力のテストに集中できませんでしたから。」
3人分のコーヒーを淹れて来た雅樹が、お盆を持って戻ってきた。それぞれに配り終えるとソファーに座り、皆がなんとなく考えていたことを言語化し始める。
「えーっとオレにも聞こえちゃってたんですけど。つまり重河さんが田中さんのオーディション参加を妨害するために、自分の勝利を確実にするために大沢に詐欺をさせた疑いがある…そういうことでしょうか?」
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