15章 特殊詐欺の行く末-22
大沢の協力者が保釈金を用意するのが先か、それとも警察側が司法取引を完了させるのが先か…今の時点では誰にも予想が付かなかった。
一方その頃。
忠司と雅樹が留守番している事務所がCLOSEになる頃、約束通り田中は現れた。のり子がいないことを訪ねられたが、大沢のところへ話を聞きに行っていると伝えると自らの依頼に関する調査をしてくれていることに少し嬉しい様子を見せた。
「重河さんって田中さんみたいに、画面越しに見るより実際に会ったらもっとカッコいいんでしょうね!オレも会ってみたかったな~。」
そう、前回重河が訪ねてきたとき雅樹は田中の家へ行っていたため顔を合わせていないのだ。また用があれば会えるかもな、と忠司が諫める。来客用のテーブルを挟み三者それぞれソファに腰かけると話が始まった。
今日田中に来てもらったのは、重河が語った内容の確認をするためだった。少なからず彼が関係者である以上、彼の証言を洗う必要があるからである。
「それで、重河は何か言っていましたか?」
「TANA・SIGEコンビが仲が良いのは表舞台だけで裏では全く仲良くないこと。その証拠に来年からお互いソロでの活動が増えていくことになったこと。重河さんと田中さんのおばあさんはたまに会ったときにあいさつを交わす程度の面識だったこと。要点をかいつまんで言うとこんなところでしょうか?」
クセなのか顎に右手を握ってあて、まるで"考える人の銅像"のような格好でじっと忠司の話を聞いていた田中。少し間はあったがやっぱりな…というリアクションを見せた。
「重河の言っていることは全て本当ですね。」
「そうですか。まぁこれらのことが全て事実、という情報にはなりますが。」
そんな田中の様子を見ながら、雅樹はふと頭に浮かんだ疑問を依頼人にぶつけてみる。
「そういえば田中さん、なぜ今日はわざわざここに?今のリアクションからして、重河さんが何を話すか大体予想済みだったという印象を受けました。だったら直接ここに来なくても、電話やメールで確認できたのでは?忙しいスケジュールの合間を縫ってまでここにいらしたのは何か他の理由がおありだからでしょうか?」
雅樹の問いかけに一度は顔を上げ彼の目を見ながら聞いていた田中だが、聞き終えると再び目線をテーブルに落とした。そのまま大きく深呼吸すると、視線は机に落としたままで一言だけ言い放った。
「僕はね、大沢に詐欺の指示を出したのは相方の重河なんじゃないかと思っているんです。」
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