15章 特殊詐欺の行く末-21
「司法取引?」
のり子と共に面会室に入ってきた警部はガラス越しの大沢に話しかけた。大沢は男の警部が話し相手なのが不満なのか露骨に嫌な顔をし、わざわざ隣にいるのり子に向かって話す。
「あァ。アンタら警察は詐欺グループ黒ネズミの幹部の生き残りを逮捕できる、俺様はその代わり量刑を軽くしてもらえる。確か日本の法律にはそんな制度があったよなァ?」
司法取引とは、容疑者や被告人が詐欺などの経済的なものや薬物関係など一部対象となる犯罪の捜査情報を警察や検察に提供するかわりに、量刑を軽くしてもらうなどの考慮を受けられる制度である。なお殺人罪など司法取引の適用外となる罪もある。
「たしかに捜査2課に確認したところ、未だ黒ネズミ時代とかなり似た手口で詐欺を働いている者がいるとの情報もある。お前の情報で生き残りを逮捕できるなら、お前の減刑も考慮される可能性が高い。だが嘘の情報提供をした場合は、罪が重くなることくらい分かるだろう?」
「オッサンよ、俺様は頭が良いって言ってンだろ?そんなこと言われるまでもなく百も承知だぜ?」
のり子が話を引き継ぐ。
「でもどうしたの急に?この前話したとき、俺様は口が堅いんだって自負していたじゃない。」
急に大沢は下を向いて黙り込む、恐らくどこまで話していいか計算しているのだろう。
「裏切られたんだよ俺様は、アンタの言う協力者ってやつになァ。」
「わざわざお使いの若い男まで送り込んできたのに?」
「俺様は裏切りだけは許せねぇ性質でね。本来は逮捕されてもすぐ保釈金の用意をしてくれる手はずだったんだ、だからこそ俺様はアイツの提案にのった。ところがこの前急に保釈金の額が上がったからとか何とか言って、金払いを渋りやがった。ふざけんな、汚れ仕事だけやらせて自分はお天道様の下ですまし顔で生活する気ってか?そうはさせねェ。」
大沢はいたって静かな口ぶりだが、目に力がこもり肩が微かに震えている様子を見るとかなり怒っていることは確かなようである。
「警察のことはアタシには口出しできないけど、この男ウソの証言をするように見えないわ。警部さんどうするの?」
「ウム。まぁそんなことをすれば自分の首を絞めるだけというのは分かっているようだし、ちょっと検察側や捜査2課に掛け合ってみるよ。」
「ありがてェ…きっとアンタら驚くぜェ?」
「でもそれなら、今この場でアタシ達に全てを話してくれてもいいんじゃない?」
のり子が突っ込むと、大沢はニヤリと笑って返した。
「それもちょっと考えたさ、だが司法取引成立前に保釈金を用意してくれる可能性もあるしなァ。そうなったら雇い主を裏切ることになっちまうだろ?だから俺様が今言えるのはここまでさ。」
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