15章 特殊詐欺の行く末-18
同日、午後。
お昼ご飯を食べながらもようやく録音データを聞き終えた忠司は、重河が映画主演を勝ち取ったというニュースを聞いても無反応だった。ゴシップや芸能人に興味のない彼らしい反応ではあるが。一方大沢の量刑が重くなりそうだというニュースにはやっぱりなという反応を示し、彼の中では予想済みだったようである。
「大沢が面会室で余裕の態度だったのも、詐欺容疑のみだと罪が軽いとタカをくくってたのかもしれないな。最近は特殊詐欺の被害額も増大して処罰もどんどん厳罰化しているんだが。」
「そういえば忠司さん、オレと多見さんの録音データを聞いて何か変なところはありませんでしたか?」
「??? 別に何も感じなかったぞ、証言も別に嘘をついてるようには聞こえなかったし。スーパーへ行ったことも警備会社に連絡したこともそれぞれ監視カメラや通話記録を調べたら簡単に分かるだろうから、嘘の証言だったらそれこそ警察にマークされているだろうしな。」
「そうですか…。」
「でもこれだとアタシ達の情報収集も行き詰まりよね。相方の重河さんはおばあさんとほぼ面識なし、お手伝いさんも事件のことは詳しく知らない。犯人の大沢は肝心なことは口を割らないし、困ったわね。」
「一応依頼人の田中風磨さんには、来週もう一度来てもらうことになってる。そこで何か掴めると良いんだが…。」
「でも初回来た時にだいぶ話を聞きましたけど、思い出したことでもあったんですかね?」
「分からん。向こうから『話したいことがあるから来週の水曜日の夜また行く』と連絡が来ただけだからな。」
一方、某拘置所。
とある若い男が大沢の面会に来ていた。
「は?保釈金を支払えないだとォ?保釈金や賠償金はしっかり面倒見るって約束だったじゃねぇか?テメェの雇い主は俺様を裏切るのか?」
びくびくしながら面会に来た男は答える。
「そう言われても、こっちだって1万円であなたの伝書鳩係を任されただけですから知りませんよ。思ってたよりあなたの罪が重くなりそうで、保釈金も吊り上がるだろうから時間をくれって。何か伝えておくことはありますか?」
「即払ってもらえないなら約束はナシだ、俺様にも考えがあるぜ。そう伝えておけボケェ!」
息を荒げて足元を思いっきり大沢が蹴り飛ばすと、面会代の支柱はステンレス製だったのかバーン!と大きな音が面会室に響いた。係の者が3人足早に近づいてくると大沢はそのまま連れ戻されていった。
(伝言ゲームするだけで1万円っていうから引き受けたら…とんだ闇バイト(※)だぜ。)
若い男はびくびくしながら面会室を後にした。
※闇バイト…公に募集できない危険・違法な行為をする手伝い役のこと。大抵日給5万など普通ではありえない高額な報酬を提示される。オレオレ詐欺なら電話役、誘拐事件なら身代金の受け渡し役など直接警察に捕まるリスクが高い使い捨ての駒役である。
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