15章 特殊詐欺の行く末-16
翌日 午前9時 事務所
忠司とのり子は雅樹が持って帰ってきた『お手伝いの多見さんと雅樹の会話』の録音を、雅樹は『忠司とのり子と重河の会話』の録音を各々聞いた。ちなみにのり子はきちんと雅樹に重河のサインも渡したが、雅樹はすぐに妹に渡さず誕生日まで事務所に保管しておくらしい。雅樹の妹に依頼人が大好きなアイドル本人であることを明かせば、まず間違いなくこの事務所に押し掛けてくることが容易に予想できるからである。
先に録音を聞き終えたのは雅樹。
「仲良しアイドルコンビの裏側かぁ。貴重な真実を知れて嬉しいような、いっそ知りたくなかったような…。」
彼の独り言にのり子が反応する。お手伝いさんの証言は雅樹の会話と合わせておよそ6時間にも及び、関係ないところを早送りしながら聞いても長い。のり子はすっかり飽きて忠司に丸投げした様子である。
「妹さんには言わない方が良いでしょうね、あんまり知らないアタシでさえ昨日本人から聞いたときは結構ショックだったから。」
「そんなガッカリ情報わざわざ言いませんよ。それに彼の口調、ウソをついているようには聞こえませんでしたね。恐らくおばあさんとさほど面識がなかったという彼の証言は本当でしょう。」
「アタシと八重島さんも同じ意見よ…そういえばそろそろ10時ね。例のソロ主演映画のオーディション結果が事務所ホームページで発表されるそうよ!」
忠司はのり子が投げだした辺りでイヤホンを使い、証言を聞くことに集中している。のり子と雅樹は自分たちのスマーフォンで確認してみることにした。
「うわ、サイトの表示が遅いですね。」
「多数のファンが結果発表を楽しみにみんなが一気に接続しているから、インターネット回線が混み合ってるのね。まぁどうせ誰かがスクリーンショット(※)でもしてSNSに上げてくれるでしょうけど。」
結果、主演を勝ち取ったのは重河だった。作品の主人公の背格好や雰囲気、前回の舞台の演技などを考慮した結果ということだった。
「重河さんが勝ったのね!昨日自信ありげな感じだったけど、きっとオーディションで手ごたえあったのかもね。」
「とはいえ主演が重河さんになるだけで、田中さんの方も友情出演で作中の重要な役を演じるって書いてありますけどね。結局コンビでの仕事って感じですね。」
※スクリーンショット…元はパソコン用語で、映している画面をそのまま写真のように1枚の画像として保存する機能のこと。近年のスマーフォンやタブレット機器などにも標準装備されている。
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