15章 特殊詐欺の行く末-15
「でもなんでそんなに仲が良くないの?一緒の仕事していたら多少は親近感とか湧いて来るものじゃないかしら。ほらよくカップルの仲を深めるには二人で家具を組み立てるなどの共同作業をしろ、なんて言うじゃない?」
サインを終えた重河はソファの背もたれに深く身体を預けて答える。
「そりゃ最初は仲良くやってましたよ。自分と風磨は同い年ですし、タメ同士二人でビッグになろうぜ!って感じで。事務所もそれを汲んで超仲良しコンビとして各方面に営業をかけてくれました、むしろそのブランディングを守るために今までソロ仕事のすべてを断ってきたくらいですから。」
「さすが大型事務所、中小規模だとそんな贅沢に仕事を選んでいられないだろうから。」
「ご名答、自分たちが断った仕事は同じ事務所の別のアイドルが代わりに受けたりしていました。とにかくそうやって自分たちのコンビは事務所の営業通り、すべての仕事を必ずコンビでこなす異例の仲良しコンビとしてすぐ有名になりました。初期からファンの方が多くついていただけたこともありますが。」
「ふーん、それなら仲が悪くなったのには何か転機があったはずよね?理由なく仲違いなんてしないだろうし…喧嘩でもしたのかしら?」
「違いますよ、皮肉にもその人気が自分達の仲を分けた理由です。コンビで仕事をするということは、必ず比較されるんですよ。自分も風磨もコンビを組んでいるというだけで、クローン人間ではないから能力に違いがあるのは当たり前。それなのにテレビやライブに出演する度に、歌は風磨の方がうまいとかダンスは重河の方が…そういう感じで。事務所からはそんな下らないこと聞き流せと言われましたが自分達も人間です、無意識のうちに多少なりともダメージが積もっていたんでしょうね。気づけば自分と風磨の仲は遠ざかっていて、ついにはソロ仕事を頼むようになったってわけです。」
「コンビやグループで活動する者達の宿命だな、他のメンバーと比較され評価されることは。かといってソロ活動ではできることの限界も見えやすいという現実が待っているがな。」
「自分達もその辺は分かっていますよ、だからコンビ活動は続けつつソロで出来る仕事は個人の力量に任せようということになりました。こっちだってガキじゃない、風磨の方が向いている仕事があることくらい分かってる。」
普段出せない素の悩みを吐き出せたからなのか、どこかスッキリした様子の重河は明日も早いのでこの辺でと去っていった。
雅樹は依頼人宅から直帰したはずなので情報交換は後日ということになった。
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