15章 特殊詐欺の行く末-14
「えっ!」
まさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔でのり子が驚く。
ここだけの話にしておいてくださいよ、お二人にしか話していないんだから広まったらリーク元があなた達だとすぐ分かりますからねと前置きして重河は続ける。
「テレビで話している仲良しエピソードはすべて台本と言う名の捏造です、本当は撮影先のビジネスホテルだって絶対別々の部屋にしてもらっています。名目上はお互い最低限のプライバシーが必要だということにしていますが、そんなのはタテマエってやつですね。お二人だって嫌でしょ?対して仲良くない人間と仕事以外の時間も同じ部屋で過ごさなきゃいけないなんて。」
「なんていうか…ちょっとがっかりね。」
「そうか?俺は薄々気づいたぞ。仲が良いならそれこそ絶対一緒に入ってくるはずだからな、気まずい話の時に片方がちょっと席を離れればいい。仲良しグループを売り文句にしている割にしょっぱなから別行動した時点でおかしいなと思ったよ。」
飲み物を一口飲んで再び重河が口を開く。
「男前のあなたは察しが良いみたいですね。正直うんざりしてたんですよ、ドラマもラジオも舞台も何もかもアイツと一緒。そりゃ仲良しを売りにしてるんだからと割り切って仕事してますけど、自分も人間ですからそろそろ限界でしてね。それで事務所にいい加減で別々の仕事を用意してくれないかと頼んだわけです。」
「信じたくないけど確かにそれなら辻褄が合うわ、ちょっと変だなとは思っていたのよ。ずーっとコンビで活動してきたのに来年からはソロの撮影が始まりますなんて。」
「俺はこのコンビのことはよく知らない分、特に違和感も感じないがな。」
「とにかく、それで先日のオーディションが行われたんですよ。来年撮影が始まるアクション映画のね。まぁ危険なシーンはスタントマンが行うので、自分たちは軽く走ったりする運動やキャラづくりなどの演技力が主な審査項目でしたけど。」
「そうよそれそれ、どっちが勝ったの?同僚の妹もあなた達のファンでね、結果はどうなのか教えてあげたいのよ。」
「残念ながらそれは発表をお待ちください、どうせ明日の午前10時に事務所から正式発表されることになっていますから。というか当事者の自分達も教えられてないので。」
「なによ残念ね、でも自信のほどは?」
「もちろん大有りですよ!初のソロ仕事ですからね、なんとしても勝ち取ります!」
そんな会話をしながらちゃっかり重河に自分と雅樹妹の計2つ分サインをゲットしたのり子であった。一方忠司は、重河の言動を注意深く思い返しながら考えた。
(この様子だと、依頼人のおばあさんと重河さんはごくたまにあいさつする程度の希薄な関係と見て間違いはなさそうだな。)
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