15章 特殊詐欺の行く末-9
一週間後 事務所 CLOSE後
依頼人の田中が忠司の連絡により事務所に訪れていた。お手伝いさんへの聞き取りの許可を得るために忠司が呼び出したのだ。電話でも良かったのだが、こういう類の話は直接許可を取っておく方が後々なにかと都合が良いからである。
「…というわけで、お手伝いさんにもお話しを伺いたいのですが。可能なら田中さんのご両親にもですが。」
「お手伝いの多見さんなら平日の午前10時~午後6時まで居ますよ。あと僕の両親はどっちも今回の事件には無関係です。母親は自分の父親、つまり僕から見れば母方のおじいちゃんの持病が悪く北海道の実家に半年前帰ったきりです。父親は努めている会社の福岡支社に3か月前から出張中で年明けまで帰ってきません。一応両親ともおばあちゃんの件は僕や警察からの連絡、ニュースなどで知ってはいるようですが。」
「そんな遠方に住んでいるんじゃさすがに関係なさそうね。」
「警察の方でも一応身内ということで軽く事情を聴いたみたいだが、二人とも本当に驚いており嘘をついている様子もなかったそうだ。」
「警察にも散々聞かれたでしょうが、田中さん自身なにか他に心当たりはありませんか?」
この質問を投げかけた雅樹は、田中の表情に一瞬だけ緊張が走ったのを見逃さなかった。忠司はききだした情報をパソコンへ打ち込む作業に集中し、のり子は人物相関図のようなものを描いていたので気づかないのも当然だが。
「…?どうかしましたか?」
「いえ、お手伝いの多見さんです。警察の事情聴取には素直に応じ、彼女のスマホなどの履歴にも特に怪しいやり取りはなかったと聞きました。ただ仕事内容などの最低限のことには答えたが、今回の事件については知らぬ存ぜぬを貫いたそうです。詐欺犯は捕まりおばあちゃんの自殺は確定している上、明確な容疑者でもない多見さんのことを長時間拘束するわけにもいかずそのまま開放されたそうですが。」
ここでミーハーなのり子が意外なことを言いだした。
「ねぇ田中さん、相方の重河さんにも調査お願いできないかしら?ほら田中さんの相方でしょ?一応関係者ってことになるわよね?」
「川島田お前…どうせ相方にもサインもらおうとか思ってるだろ。」
「それなら可能だと思いますよ、僕たちは常にコンビで撮影が入りますからね。つまり休みの日取りも一緒…3日後の木曜日の夕方5時以降なら空いてますよ。それに一応重河もオレの家に出入りしていて、おばあちゃんとは面識がありましたから。」
「決まりね!やったわね、雅樹くん相方の分もサインもらえるかもよ?アタシに感謝してよね。」
「ではのり子さんオレの分もサインもらっておいてくれます?オレ木曜日は何も依頼受けてないので、お手伝いさんのところに行ってきますから。」
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