15章 特殊詐欺の行く末-7
それぞれの録音用レコーダーのスイッチを押す吉川とのり子、もちろん前もって了解は得ている。
「まずいくつか確認させてください。あなたが詐欺をしたのは本当に事実なのか、また事実ならどうしてあのご老人を狙ったのか。逮捕された時の命令された、とはどういう意味でまたあなたに命令を下したのは誰なのか。今後の弁護方針や裁判の資料になる可能性が高い重要なことですので。」
弁護士の吉川が尋ねるが、野郎と話してもおもしろくねぇんだよと大沢は一蹴。まぁこうなるだろうことは佐野警部からの情報で薄々分かっていた吉川弁護士は、のり子に視線を向ける。
「ではアタシとお話ししませんか?ちょうどこの事件、世間のワイドショーでも注目されているんですよ。被害者はとあるアイドルの身内でしたからね。」
「あー知ってるぜ、あの大人気アイドル田中だろ?いいよなァあいつらは、ちょっと歌ったり写真撮ってもらうだけで月に何百万と稼ぐんだからよ。羨ましいもんだゼ。」
話し相手がのり子に変わった瞬間、饒舌になり出した大沢。ある意味やりやすそうな男だ、吉川とのり子はこの時そう思った。
「その口ぶりからすると、無差別ではなくあのおばあさんを狙っての犯行ですね?」
「あぁそうさ。そこら辺の貧乏人をチマチマ狙うより金持ってるアイドル本人、もしくはその身内を狙う。その方が効率良いだろ?俺は頭が良いからヨ。」
「そうね、元気で節約家のおばあさんを騙すには相応の賢さが必要よね。おバカな犯人だったら1円もゲットできず通報されて足が付きますから。」
「まぁなァ…でもあのばあさんが元気かどうかは関係なかったと思うぜェ?」
ヒヒヒ…と意地悪そうに笑う大沢。吉川ものり子も気味が悪かったが、その言葉に妙に引っかかりを覚えた。
「…?それはどういうこと?」
「さぁな。あんたは美人で話してて楽しいが、言って良いこととダメなことの区別くらい俺にもつくからなァ。」
なんとも思わせぶりな口調である、命令役に口止めされているのだろうか?
「ではあなた自身があのおばあさんを狙って詐欺を働いたことを認めるんですね?」
「あぁ、間違いなくあのばあさんから金をふんだくったのはこの俺だヨ。」
「それともう一つ。命令されただけとあなたが逮捕時に叫んでいた件ですが…。」
「さっき言ったはずだぜ綺麗なお姉ちゃんよォ?俺はこう見えても意外と口が堅い方なんだよ。」
その後も吉川とのり子がいくつか質問したが、何も新しい情報を得ることはできなかった。当初の印象とは裏腹になかなか手ごわい男である。
やがて面会時間終了になると大沢は、正式な依頼は女弁護士に頼みたいぜと吐き捨てながら警官たちに連れられ歩いていった。
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