15章 特殊詐欺の行く末-6
数日後、某拘置所。
先日の詐欺事件で逮捕された大沢は、逮捕後その罪に対する裁判が開かれるまでの身柄を拘置所に拘束されていた。
被告人は逮捕・拘留されたあと弁護人を呼べる権利があるのだが、当然大沢もこの権利を請求していた。今日は彼が呼んだその弁護士と面会する日なのだ。さすがにどんな弁護士が来るか気になるのだろう、個室の中でやや落ち着かない様子の大沢を2人組の警官が呼びに来た。
「大沢、来なさい。」
大沢は2人の警官に前後を挟まれ、しばらく歩きとある部屋に案内された。大沢の予想通り、そこは刑事ドラマなどでよくある透明な(ただし防弾・耐衝撃用に分厚い)ガラスとカウンター越しに弁護士や家族と話せる面会室だった。
大沢が入ってきた扉には見張りの警官が立っているくらいで、余計な物が一切ない殺風景な部屋だ。特に大沢の側にはパイプ椅子が一つしか置いておらず、その椅子すら足元が固定されていた。被告人に対し武器となる物や脱獄の手助けになる道具を与えないためだろう。
(どんな弁護士先生かなァ…。)
間もなく反対側の扉が開くと、3人の男女が入ってきた。
最初に入ってきたのは佐野警部、自ら案内役を名乗り出たらしい。実は弁護士をどうすると警察から尋ねられた大沢が、誰でも良いあんたらに任せると言ったので警部がちょうど手の空いている知人の弁護士がいると紹介したのだ。
もう一人は大沢より若い男性で、身長は平均ほどだが体格がかなり良い端正な男だ。胸元には弁護士バッジが光る。この男は自分の名前を吉川拓と言った。
そしてもう一人、最後に入ってきたのはなんとのり子だった。落ち着いた黒色のスーツに眼鏡をかけ、何食わぬ顔をして吉川の横に座った。大沢があんたはバッジが付いてねぇようだが?とのり子に尋ねると、当然のように私は吉川先生のお手伝いですのでと答えた。
そう、これが警部と忠司が取った大胆な作戦である。大沢は重度の風俗通いをするほどの女好き。つまり女性を向かわせた方が大沢を油断させやすい、今回のり子が選ばれたのはきちんと理由があったのだ!
警察の方ではすべて男性警官が事情聴取を担当していたが、大沢は一切口を割らなかった。それを聞いた忠司の方から、もしかしてと警部にもちかけたのである。
案の定大沢はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ始めた。ガラス越しとは言えなかなか気持ち悪いものであるが、効果はてきめんのようだ。それを見届けると警部は出て行った。
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※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。




