15章 特殊詐欺の行く末-4
17:05 事務所
やはり田中風磨本人が依頼人としてやってきた。彼の事務所の人間で運転手兼マネージャーを務める男は車の中で待機しているという。雅樹の情報通りやや小柄だがニコニコと可愛らしい笑顔で屈託なく話すという印象で、なるほど女性ファンが多いのも納得である。
さっそくのり子と雅樹が色紙とペンを持ちサインをねだるとさすが大人気アイドル、快く対応してくれたようだ。さすがに写真はNGされてしまったが、のり子と雅樹はキャッキャとはしゃいでいた。
二人分のサインが終わったのを見計らって忠司がわざと大きな咳払いをして場を収めると、今日は雅樹がみんなの分の飲み物を用意しに行った。のり子と交代制にしたようで、来客用ソファーにはのり子が案内していた。
各々準備を済ませ3人も反対側に座ると、依頼人が口を開いた。
「もう聞いているかもしれませんが、僕のおばあちゃんが特殊詐欺に騙された末自殺に追い込まれたんです。僕はそれが許せなく、佐野という警部の方にここを紹介してもらって来ました。どうにも納得のいかないことがいくつかあって、皆さんに調査していただいて納得のいく答えが得られればいいなと。」
「失礼ですが警部とどのように接触なさったんですか?」
「僕がいろいろな手続きや関係者への聴取のために警察へ行ったとき、おばあちゃんの件は単なる自殺で処理するなと散々喚いていたんですよ。そこへ騒ぎを聞きつけた警部さんが、ここなら自分の知り合いで手を貸してくれるからと。」
「なるほど。それで納得いかないこととは?」
「まず一番大きいのは、なぜおばあちゃんが特殊詐欺なんかに引っかかったのか?あの人は節約家で、無駄なものは一切買わない人です。警察の人に『特殊詐欺は判断能力が低下している老人が特に狙われやすい』と聞きましたが、おばあちゃんはボケてなんていませんし易々と詐欺に引っかかるとはどうしても思えません。それに犯人の大沢が逮捕された時、奴は『俺は命令されたことをやっただけだよ!』と叫んでいたそうです。」
「あ、それ確か当時のワイドショーでもやってたわよ。ご近所の人が聞いてたんですよね?」
「そうです。大沢の言ってることが本当だとしたら、アイツに命令を出したやつがいるってこと…そこも明らかにしたいんです。どうせ犯人の大沢は事情聴取で口を割らないんでしょう?警察からは捜査情報を教えるわけにはいかないと言われましたけど、新しい情報が何一つ出てないことを考えたらそんなことくらい僕にもわかりますよ。警察としては詐欺犯人は逮捕して騙されたおばあちゃんは自殺ってことでさっさと一件落着させたいでしょうし。」
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