1章 アパレル女性 絞殺事件-1
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
約束の17時少し前に、私服姿の日之出警部は現れた。慣れた手つきで受付の来客名簿に記名すると、事務所の中を見回した。おそらく他の来客がいないかを確認しているのだろう、今日も頼むよと言いながら来客用ソファに座った。
「どうぞ、熱いので気を付けてくださいね。」
のり子がお茶を出し、そのまま向かい側の3人掛けソファの端に腰掛ける。トライアングルのメンバーが揃ったところで、警部が切り出した。
「いつもすまんね、今回は先日代々木のマンションで起きた殺人事件のことだ。代々木にある2階建てアパートの201号室の住人で、一人で住む姫田やよいさん26歳女性。アパレル会社のデザイン担当者で職場は渋谷、玄関先で絞殺されているのを発見された。部屋に侵入された形跡や、財布など金品が盗られた形跡はないため、物取りではないと考えられている。容疑者は4人。同じアパートに住んでいる3人と、被害女性の上司。アパートの他の住人は事件当時外出していた。」
雅樹が口を開く。
「同じアパートの人たちが重要参考人なのはともかく、なぜ職場の上司まで?」
警部はうんと相槌をうち説明を続ける。
「玄関に倒れていたところから見て、被害者が招き入れている。つまり顔見知りか知人の犯行の疑いが強い。上司の方は被害者のやよいさんと最近男女の関係にあったということが判明した。その上司というのが既婚者の男でな、不倫関係のもつれという線も出てきたから容疑者候補入りになったんだ。」
自分で入れたお茶に口を付けながら、のり子が言う。
「当然よね、女の恨みはコワイんだから!犯人はその不倫男か、もしくは奥さんってところかしら。動機は痴情のもつれってとこかしら?」
「いや事件概要だけ聞いて決めつけるのは良くないな、不必要な先入観となってしまう。」
忠司が静かにのり子を諫めると警部が続ける。
「いやのり子くんの言うことも一理あるかもしれん、実際男女の仲がもつれて何らかの事件になることはよくあることだしな。とにかく今回の容疑者たちのことと、軽く事情聴取したことをまとめてある資料も持ってきたから、それを見てくれ。くれぐれも情報を漏らさぬようにな。」
雅樹がそこで独り言のように言う。
「こういうのって推理小説なんかだと、完璧なアリバイがあるやつが逆に怪しかったりするんだよな。」
警部は、バッグから資料を取り出しながら一言告げた。
「それがな、今回の容疑者は"全員アリバイが無い"んだ。」
22/9/11 警部の発言部分が事件概要とごちゃまぜになっていたところを修正。
22/9/13 物取りの線でないことを追記。(街中の人が容疑者になるため)
22/9/14 読みやすいよう改行を増やしました。
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後を改行)
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