14章 生配信中の殺人事件-17
「どうっすかのり子さん?動機っぽい情報が出てきましたけど。」
雅樹がのり子の様子を伺うも、怪訝な表情を浮かべるのり子。それを察して今度は忠司の方が声をかける。
「釈然としていない様子だな。」
「うーん…だって、弱くない?」
のり子はこう言いたいのだ、『この3人の語っているトラブルは殺人に匹敵する程ひどいトラブルなのか?』と。
確かにキリヤは外見上の差などの理由から嫉妬をニリポンから受けているが、それはニリポンが怠惰なだけとも言える。おしゃれな人が羨ましいなら、本人がダイエット・メイク・ファッションセンスを磨けばいい話だしキリヤは"嫉妬されていた側"である。嫌味の言い合いなど女の世界ではよくある話だし、残飯を押し付けられるのも断ればいいだけ。
企画担当の豊島はもっと簡単にトラブルを解決できる。自分が企画を提案するときの映像か録音でも取っておき、ニリポンに同じ手を使われそうになったら交渉するなり告発するなりしてしまえばいい。今の時代スマホ1台で録画も録音もできるではないか、ましてや高校時代からの友達関係ならニリポンの性格・やりそうなことくらい熟知していそうなものだ。
真鍋もそうだ。いくら新人で仕事だからって、突然の遠方要請や深夜の呼び出しは断ることくらいできるだろう。給料の支払いだって遅れてはいるものの、この言い方だと払われてはいるようだ。
「確かに…人を殺すという動機まで至らなそうですよね。手柄の横取りとか気に入らない同期に嫌味攻撃なんて一般の会社でもあるでしょうし、これで人殺してたら事件だらけになりそうですよね。」
「アタシもそう思ったわ、きっと犯人は他に何か隠していることがあるのよ。」
「そういえば警部、このスタジオの他の階はどうでしたか?」
2人のやり取りが落ち着いてから尋ねる忠司、警部からの回答はこうだった。
このスタジオは6階建てで、1階は入口から見て右側に守衛・男女トイレ・自販機が数台置いてある休憩スペース・一番奥にエレベーターと非常階段。左側はレンタル用オフィススペースが5部屋だが、事件当時はおおみそか。普段は一般企業がミーティングなどの際借りているようだがそれらの利用はなく誰もいなかった。また空き部屋はもちろん施錠されている。
2階から6階も入口と守衛部分がないだけでほぼ同じ造りである。最近は動画配信者が爆発的に増え、カメラを利用する者も多いことから2階から6階部分は主に個人利用や配信利用者に貸しているという。
2階…配信者2名とそのマネージャー1名分、配信用の部屋1つの計4部屋を貸し一つ空き部屋。事件時は20時~翌1時まで年越し生配信中で3人とも映っているので犯行不可能。
3階…ニリポン・キリヤ・豊島・真鍋で1部屋ずつ。
4階…当日の利用者なし、トイレ・廊下の電気すら消えていた。
5階…4階に同じ。
6階…年越しライブするための配信者2名コンビの利用予約があったが、この2名が到着したのは23時すぎ。それまではスタジオ近くのファミレスで動画撮影をしていたというアリバイも確認されたため犯行不可能。
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※4/21 更新分です
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