14章 生配信中の殺人事件-11
13:10 事務所
ヤッホーと言いながら上機嫌でのり子が事務所に現れた。どうやら子守りのお礼にと依頼人が婦人会でもらったシルク製のバスタオルを、追加報酬としてプレゼントしてもらったようだ。当然のり子は遠慮したが、1割引きにしてくれたしまた頼むわと押し付けられるような形でもらったという。まぁのり子としてもお肌に優しくそこそこ値の張るシルク製、ということでまんざらでもないのであった。
「メッセージ見たわよー、警部さん来てたんだって?」
「そうですよ、1時間くらい前に昼食取って署に戻るって帰っちゃいましたけど。それより事件の相談っていうのがアレですよ、去年の大みそかにニリポンっていう女性配信者が生放送中に容体急変したやつ。」
えっ!と声を上げるのり子。
「やっぱりアレ、事件だったのね。アタシ達のところに相談に来てくれるなんて、なにかの縁かしらね。」
忠司と雅樹が聞くところによると、のり子はニリポンのチャンネル登録者数がまだ4桁くらいのときから見ている言わば"古参リスナー"なのだそう。もちろん例の大晦日そばの食べ比べ配信も見ていたらしいのだ。
「あれでしょ、お腹痛いって倒れちゃうやつ。ニリポンってドッキリ企画も月に何回かやっていたから、アタシもどうせドッキリでしょって思ったのよね。そうしたらお正月早々、ニリポンが中毒死なんてニュースやってるじゃない?もうビックリよ!捜査第一課の警部さんが扱っていて、なおかつ相談に来たってことは殺人だったのかしら?」
相変わらず鋭いのり子に、忠司と雅樹が以下のように事件の説明をした。
・容疑者はマネージャーのキリヤ、企画担当の豊島、編集チームの新人真鍋の3人。それぞれの入り時間と行動。
・ニリポンのテスト用スマホに犯人が毒入りサプリメントを混入させるところが映っていたがそれは手の部分だけだったこと。手袋をしていて手首のあたりに黒いロングTシャツの袖口が映りこんでいたこと。
・ただし関係者はニリポンを含め、黒いロングTシャツなど着ていなかったこと。
・エレベーターに監視カメラが向いており、正面にある非常階段はドアを少し開ける程度なら死角で映らないこと
・守衛も普段からスタジオを利用する人は顔パスで通しており、巡回などで常駐はしていないこと。
・複数の理由から外部犯の可能性は低いこと。
「そうねぇ、これだけじゃ分からないわね。カメラの死角を利用して他の階の人間が犯行に及んだかもしれないし…でもこの事件」
もらってきたシルク製のバスタオルの感触がよほどいいのか、それを撫でながらのり子が自信満々に言い放つ。
「多分、解決するのはアタシよ?」
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
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※4/15 更新分です